16歳のアイドルを自殺に追い込む、「夢を食うおじさん」の罪スピン経済の歩き方(4/6 ページ)

» 2018年10月16日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

活動のメインは「返済」すること

 先ほども申し上げたように、アイドルを目指す少女たちは、まず事務所に所属しないことには何も始まらない。そこでレッスンやプロデュースという多額の貸付を負わされて、それを返済するための活動がメインとなってくるのだ。

 そのため、自分には才能がないと判断をしても、アメリカンドリームを追う人たちのようにスパッとやめるということができない。「グループのみんなに迷惑がかかるだろ」「そんな甘い考えでは成功できないぞ」。プロデューサーやマネージャー、事務所社長など「夢を食うおじさん」からの叱責を受けながら、事務所の先行投資に見合うリターンを出すために必死に働き続けるのだ。その一方で、「恋愛禁止」など、これまた海外ならば人権問題に発展しそうな禁止事項によって、仕事だけではなく、私生活にまでさまざまな制約がかかる。

 「私の夢はアイドルになること」と無邪気に始めたのに、いつの間にやらその「夢」に金を注ぎ込んだオトナたちやその家族の生計まで背負わされ、「できないことだらけ」の人生を送るハメになるのだ。そんな罪悪感と重圧を、16歳やそこらの年端もいかぬ少女にかけていけば、どんな悲劇が起こるのかは容易に想像できよう。

 「そんな風に少女を追いつめるのは一部の悪徳芸能プロダクションだけだ」という芸能関係者からのお叱りの言葉が飛んできそうだが、事実として、アイドルなどを目指す少女たちの憧れである、あのカリスマ女性歌手でさえも、罪悪感マネジメントの被害を訴えたことがある。

 そう、先ごろ引退された安室奈美恵さんだ。

 あのきらびやかなステージからは想像がつかないかもしれないが、実は安室さんも程度の違いはあれど、亡くなった16歳少女と同じ問題に悩まされていた時期があったことを、今から2年ほど前の「文春砲」が明らかにした。

 『独占スクープ 安室奈美恵 「これでは奴隷契約です」育ての親ライジング平哲夫社長から独立へ : “後見役”18歳上「音楽プロモーター」とのただならぬ関係』(2014年8月14日号)

 平社長といえば、小学生だった安室さんの才能を見出し、二人三脚で歩んできた人物である。その「芸能界の父」に対して、「事務所を辞めたい」などと訴えたというのだ。また、このスクープを受けた『サンデー毎日』(2014年9月7日)には、安室さんが初めて自身の契約書を確認して、5年の自動更新だという事実を知って、「涙が止まらなかった」「私はいつまで仕事をしていかなければならないのか」という心情がつづれられた「謝罪文」を平社長へ送付したなんて話も飛び出した。

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