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42歳で会社員から「北欧雑貨店オーナー」に転身 踏み切れたワケとは「自宅兼店舗」を建設(2/3 ページ)

» 2018年11月02日 06時00分 公開
[中澤彩奈ITmedia]

精神的に追い詰められたことが吉と出た

 「いつかは自分のお店を構えたいという漠然とした気持ちは若いころからずっと持っていたんですけど、具体的に何をするとかは全然考えていませんでした。30代半ばの時に、趣味で集めていた北欧雑貨コレクションが増えていることに気付き『これなら自分でもできるかもしれない。北欧雑貨店を開こう』と急に思い立ったんです。すぐに雑貨店を開くための物件を探し始めましたが、都内に割に合う条件のものはありませんでした。それで、見つけられないなら家を建てればいいかなって」

 実は雑貨店オープンを真剣に考え出していたこのころ、塚本さんの父親が急逝。あまりにも突然の出来事は仕事で悩む塚本さんをさらに追い込んだ。「人生は短い。自分もいつどうなるかなんて誰にも分からない。できるうちに行動しなければ」という焦燥感が一気に高まった。

 「精神的に不安定だったことが幸いし、あの時の私の行動力は異常なくらいすごかったです。疲れもあまり感じていなかったように思います。冷静に物事を考えられなかったからこそ根拠のない自信にも満ち溢れていました。だから一軒家の購入に踏み切れたんじゃないでしょうか。無謀ですよね」と笑いながら当時を振り返る。

phot 北欧雑貨が並ぶ棚の後ろは吹き抜けの空間(2階で撮影)

生き生きと働く建築家に突き動かされた 「仕事は楽しんでもいい」

 最終的に、塚本さんはわずか7坪の小さな土地を購入。いざとなった時に売れるよう、東京都豊島区にある東長崎駅から徒歩5分の立地で値崩れしにくそうな場所を選んだ。

 限られたスペースではあるが、できるだけ広い印象を与える家にしたい。そのためには、どうすれば視覚効果を最大限に生かせるのか、どうすればデッドスペースをなくせるのか――。塚本さんは建築家たちと納得がいくまで何度も打ち合わせを重ね、理想の家づくりに取り組んだ。

 「私が『こんな感じの家にしたい』とぼんやりと伝えると、建築家の方はいくつも予想を上回る提案をしてくれました。プロと言えど曖昧な要望を具体化する作業は簡単ではなかったと思いますし、実際に時間もそれなりにかかりました。時には時間が押してしまって、ご迷惑をお掛けしてしまったこともありました。それでも皆さん楽しそうに仕事に打ち込んでいたんです。『苦しいことを我慢してやり続けることが仕事だ』と思い込んでいた私にとっては衝撃的な姿でした」

 生き生きと働く人たちに胸を打たれたと同時に、自分がいかに閉鎖的な思考に囚われていたのかを思い知ったという。

 「同じ会社で長年働き続けることにはメリットもあるけど、当然デメリットもあると思います。私の場合は、疑うこともなく“会社の常識は世間の常識”だと信じ切っていたんです。私が働いていた会社では、職場で楽しそうにしている人がいると『あの人、仕事しないで楽しているな』という目で見てしまうような雰囲気でした。それも普通のことではないのだと、その時に初めて気付かされました」

 情熱を持って働く建築家たちとの出会いは塚本さんを突き動かした。仕事は楽しんでもいいものなのだ――。塚本さんの中で自分らしく働きたいという気持ちが次第に膨らみ、家が完成した2年後の42歳の時、ようやく独立する決心が着いたのだった。

phot 2階から見下ろしたFika店内

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