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幻の鉄道路線「未成線」に秘められた、観光開発の“伸びしろ”杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)

» 2018年11月02日 07時30分 公開
[杉山淳一ITmedia]

課題は「高齢化」「自治体の境界線」

 「高千穂あまてらす鉄道」「北九州銀行レトロライン」は、他の団体とは趣が異なり、ロストライン協議会に所属したほうが分かりやすい。しかし、考えようによっては未成線も「営業せずに廃止された路線」ではないか。「未成線サミット」と「ロストライン協議会」は互いに交流を深めて学び合うことがたくさんありそうだ。

 各社が登壇したあとに開催されたパネルディスカッションでは、現状の問題点、将来に向けた課題について意見が交換された。問題点として最も多く挙げられた意見は「スタッフの高齢化」「人材不足」だ。

 赤村トロッコは15周年。当時、定年退職後にボランティアで参加した人々は70代に入っている。スタッフが多ければ交代で毎週の運行も可能だろうけれども、現状では月1回の維持にとどまる。

 これは毎週末運行の岩日北線とことこトレインも同様。五新線や今福線では新しいことを企画しても、ボランティアの数が足りない。後継者問題も深刻だ。未成線活用の原動力は「開通を期待した鉄道路線が中止になった無念」であろう。その気持ちは、鉄道が計画されていたことを知らない世代には伝わらない。後継者に対しては「無念」ではなく「未来」を託さなくてはいけない。ボランティア頼みにも限界があって、人材を確保するために賃金の支払いを検討する必要がある。つまり、商業的展開を検討しなければならない。

 「隣の自治体へ延伸したい」という願いも切実だ。赤村トロッコはトンネルの途中で引き返す。そこが赤村と隣の大任町(おおとうまち)の境界だからだ。トンネル内に柵があり、出口の光が見えているけれども、出られない。これは岩日北線も同様で、広島県と島根県の境にある4700メートルの六日市トンネルが未活用のままになっている。工事には5年もかかり、出水対策も難工事だった。とことこトレインの性能では通れない難所があり、トンネルを越えるためには新たな手段が必要になるという。

photo 赤村トロッコ油須原線の終点はトンネルの中。ここまでが赤村。降車できず引き返す

 高千穂あまてらす鉄道は、旧高千穂線のうち高千穂町内の運行にとどまる。隣の日之影町、さらには延岡市の廃線に乗り入れできればJR延岡駅に近くなる。理解を得たいが温度差が大きいという。高千穂あまてらす鉄道は集客が順調に増えている一方で、レールや枕木の設備更新、高千穂橋梁の塗り替えなどが課題だ。線路設備は高千穂町が保有しているため、高千穂あまてらす鉄道の負担は小さいとはいえ、それだけに自治体頼みである。

 北九州銀行レトロラインも上下分離方式で平成筑豊鉄道が運行している。こちらは会社組織だけあって人材不足や高齢化の問題は表面化しないようだ。目下の課題は集客の低下だという。開業時に20万人が訪れたけれども、近年は10万人と半減した状態で推移する。リピーターの獲得と訪日観光客の獲得が課題。他の団体に比べて規模が一段大きいけれども、それなりの悩みはある。また、企業運営だから、赤字が続けば経営判断で廃止というおそれもある。

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