廃線観光で地域おこし 「日本ロストライン協議会」の使命杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/4 ページ)

» 2017年04月14日 06時20分 公開
[杉山淳一ITmedia]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP


 4月8日、岐阜県飛騨市で「ロストラインフェスティバル in 神岡」が開催された。イベントの目玉の1つとして、2006年に廃止となった神岡鉄道のディーゼルカー「おくひだ1号」が約10年ぶりに本線を走行した。廃止になった鉄道路線を現役時代の車両が走る。その珍しさから、静かな温泉町に鉄道ファンや近隣の人々など、多くの人々が集まった。まるで新路線が開通したようなお祭りムードだった。テレビや新聞など報道陣も詰めかけた。

10年ぶりに「おくひだ1号」が帰ってきた 10年ぶりに「おくひだ1号」が帰ってきた

 飛騨市は2004年に古川町・神岡町・河合村・宮川村が合併して発足した。2006年に神岡鉄道の廃止が決まったとき、神岡町出身の初代市長は神岡鉄道を観光鉄道として復活させる考えだった。神岡鉄道の主要株主、三井金属鉱業株式会社から線路・車両などの施設を譲り受けた。2代目市長が廃線活用に反対するなど北風も吹いた。しかし、3代目の現職市長はレールマウンテンバイクの実績を評価し、飛騨市の財産として注目している。その理解が「ロストラインフェスティバル」と「おくひだ1号」の復活につながった。

「神岡鉄道の復活」が目的ではない

 現市長の都竹淳也氏や、レールマウンテンバイク「ガッタンゴー」を運営するNPO法人「神岡・町づくりネットワーク」理事長の鈴木進悟氏によると、当初は車庫に保存したままの車両を奥飛騨温泉口駅に展示し、ガッタンゴーの利用促進につなげようという目的だった。ところが、車両をトレーラーで運搬する費用は2000万円以上かかる。

鉄道ファンとしておなじみの石破茂氏が登壇。寝台特急出雲には1000回以上乗ったと会場を沸かせた後、「地方が大事という話は田中角栄先生のころからあった、しかし、いまの地方再生は意味が違う。地方を再生させなければ国の危機だ、という認識がある」と語った 鉄道ファンとしておなじみの石破茂氏が登壇。寝台特急出雲には1000回以上乗ったと会場を沸かせた後、「地方が大事という話は田中角栄先生のころからあった、しかし、いまの地方再生は意味が違う。地方を再生させなければ国の危機だ、という認識がある」と語った

 そこで「線路がつながっているなら走らせればいい」と思い付く。試しにエンジンをかけてみたら動いた。しかし、駆動系の腐食などで走行はできなかった。車両の修繕、線路の点検調査費用として100万円を市が予算化。神岡鉄道の元職員やジェイアール貨物・北陸ロジスティクスの職員などに協力を仰ぎ、今回の復活運行が実現した。国土交通省からは「鉄道事業の実態はなく、飛騨市が自前の資産を動かすだけ」という解釈をされたという。つまり、あずかり知らぬということだ。

 「おくひだ1号の運行が鉄道事業ではない」という理由は、同日の夕方から開催された「ロストライン協議会」の設立総会でも明らかにされた。基調講演で衆議院議員・前内閣府特命担当大臣(地方創生担当)の石破茂氏は「国土交通省に確認したところ、遊園地の列車と同じで、輸送を目的としない鉄道は鉄道事業には相当しない」と説明した。

 では、輸送とは何かと言えば「運送距離が概ね500メートルを超え、かつ、時速20キロメートルを超え、なおかつ1時間あたり1000人を超える輸送量である」とのこと。「おくひだ1号」は運送距離について500メートルを超えている。しかし、今回は時速20キロメートル未満で走り、1両の定員内で1時間に1往復しただけだから1000人を下回る。この基準は、ロストライン活用が鉄道事業と線引きするための重要な数値だ。

 「おくひだ1号」の復活運行は、ガッタンゴーの今シーズンオープン日の前日とした。この日を賑やかな祭りとしたいと「ロストラインフェスティバル」の開催も決めた。さらに、全国で廃線を使った観光利用、町おこしをする団体を招き、シンポジウムを開催したい。情報交換、相互交流の団体を結成しよう、となった。かねてより交流していた秋田県の「大館・小坂鉄道レールバイク」と宮崎県の「高千穂あまてらす鉄道株式会社」の賛同を得て、全国の団体に参加を呼び掛けた。これが日本ロストライン協議会となった。

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