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» 2018年11月08日 06時45分 公開

内田恭子の「日常で触れたプロフェッショナル」:今の私になくてはならない、風変わりな天才のN先生 (3/5)

[内田恭子,ITmedia]

 「あのね、人にはもともともっている容量というのがあるわけよ。だからポルシェみたいな人もいれば、そうだね、内田さんはスズキの軽みたいなものなの」

 「……え、先生。私ポルシェがいいんだけど。せめてベンツとか」

 先生、苦笑いでため息をつく。

 「だからね、私はこれがいいとかじゃなくて。例えば、ポルシェとスズキの軽がサーキットで全速力で競争するとするでしょ。軽だってすごいんだよ。頑張ればポルシェと変わらないくらいの速さで走れるの。でも残念ながらこれは長く続かない。同じ速度で走り続けることはできないのさ。だからね、人間も自分の体に合ったエネルギーの使い方をしていかなくてはならないの」

 確かにそのころ、先生は私に無理をしすぎないように、と会うたびに言っていた。

 「じゃあ、先生、私は一生スズキの軽で生きていかないといけないの?」

 再び苦笑い。

 「そう、それを分かってうまく自分の体を使っていくしかないの」

 それ以来、スズキの軽を見るとなんだか照れくさくなってしまう私。でも先生といろいろ話したり、次第に自分の体に耳を傾けるようになってくると、先生の言っていたことも分からなくはない。私は次に生まれ変わったら、どんなに暴飲暴食をしても耐えられる強い内臓(と素晴らしい歌声!)が欲しいと願っているけれど、人は人、自分は自分なのだ。自分の体をいかに理解して、一生付き合っていくかが大事なのだ。

 これをN先生風に言うと、

 「身体は心の毛を代弁する。真摯にその声に耳を傾ければ、活路は必ず見つかる。変えられるところを変え、耐えるところを耐え、戦力を必要なところに集中する。心を鍛えるとはそういうこと」

 でも、こんなことを私に真っ向から言ったら、

 「なんだかおみくじに書いてあることみたい」

 なんて言いかねないから、幼稚園児にも分かりやすいようにクルマに例えてくれたんだろう。

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