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ニッポンの職場が激変? 年収大幅減、下請けに丸投げなどの懸念も“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)

» 2018年11月12日 07時00分 公開
[加谷珪一ITmedia]
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早くも下請けや外注先に仕事を押し付けるケースも

 最も多いパターンは、年収の大幅減である。これまで長時間の残業込みで何とか生活できるレベルの年収を維持していた人も多く、残業が一律カットになると、その分だけストレートに年収が下がる。経済全体では消費への影響も無視できないだろう。

 もし生産性の向上で労働時間が短くなった場合には、会社には利益が生じるので、これを社員の昇給に割り当てることが可能となる(同じ仕事で比較すると、欧米企業の方が年収が高いのはこうした理由からである)。しかし業務や人員のムダを改善しないまま労働時間だけを減らした場合には、生産も落ちるので、昇給の原資は生まれず、年収減をカバーする手立てがなくなってしまう。

 次に考えられるのが、下請けや外注先の負担増である。

 法律の施行時期に関して大企業と中小企業とでは1年間のタイムラグがある。すでに多くの大企業でその傾向が顕著となっているが、社員の残業時間を減らすため、面倒な仕事を下請けに押し付けたり、業務をアウトソースするため新しい外注先と契約したりする動きが見られる。

 少なくとも1年間は中小企業には法律が適用されないので、4月以降は中小企業の労働環境が悪化する可能性が高い。実際、経済産業省が行ったヒアリングでは、大手IT企業による働き方改革のシワ寄せで、下請けの中小IT企業の労働時間が増大しているケースが報告されている。

 業務の一部を外注した場合にはその分、代金は支払われるが、発注する大企業全体で見ると人件費が増加しており、逆に生産性は下がっている。当然だが、これでは昇給の原資を捻出することはできない。

 繰り返しになるが、働き方改革の真の目的は単純な残業時間の削減ではなく、生産性の向上による残業時間の削減である。そのためには、既存の業務や人員配置を抜本的に見直す必要があり、企業には相当な努力が求められる。これを実現できなければ、まさに絵に描いた餅となり、労働者の実質賃金は低下するばかりとなってしまうだろう。

加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)

 仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。

 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。

 著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。


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