さて、勘の良い方なら既に想像がついているだろうが、リバイバルプラン前の日産自動車はまさに共和制の悪い部分が出て、ポピュリズムに陥っていた。そこに独裁官であるゴーン氏が現れて、全ての権限を統帥して改革に当たった。企業運営の根本的システムが異なるからこそ、あれだけの改革ができたのだと思う。
しかし、独裁官は改革終了とともに舞台を降り、通常の共和制に戻さねばならない。それを実現できなかったところに今回の問題の原因があるというのが筆者の見立てである。
改革のヒーローに退場してもらうのはとても勇気のいることだ。何より退場させる相手は成功者であり、信賞必罰の基本と相容れない。偉大なリーダーがもっと長く統治を続ければ、もっと多くの良い結果を生むと多くの人は考える。
しかし組織は時間経過とともに必ず腐敗する。ゴーン氏のケースもまさにこの腐敗であり、かつて共和制の腐敗の中に生まれた腐敗を一掃したことでヒーローになったゴーン氏が、腐敗の象徴とも言える金銭トラブルで経営者生命を終えたところに、シェークスピアもかくやという皮肉を感じる。
恐らくは内部的にもその腐敗は明らかなところまで進んでいたはずだ。だからクーデターを起こしてでも舞台から強制的に降りてもらう必要があったのではないか。もちろんそのさらにバックグラウンドでは日仏政府の駆け引きもあったと思われる。
いずれにしても、共和制と独裁制にはそれぞれ長所、短所があり、どちらかだけでもうまくいかない。そういう視点から眺めると、日産自動車以外の日本の多くの自動車メーカーにも当てはまると思う。
経営の循環が良い局面にある会社と悪い局面にある会社があるが、良いことも悪いことも、共和制的なことによるものと独裁制的なものによるところに分類できるからだ。
日本が長いトンネルを抜け出すために今回の一連の事件が良き影響を与えることを祈って本稿を終えたい。
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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