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スクラムに最適化した「オフィス」で働き方はどう変わったか エウレカ新オフィスで仕事がはかどる理由(2/2 ページ)

» 2018年12月13日 07時00分 公開
[高橋睦美ITmedia]
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スクラムの象徴、「透明性」を重視したオフィスで何が起こったか

 「価値あるものを素早く提供するために必要な環境を、ソフトウェアだけでなくハードウェアでも提供するのが情報システム部の役割」――。スクラムに最適化したオフィスの構想は、梶原氏のそんな思いからスタートした。

 2017年に移転した麻布十番のオフィスはその考え方に基づき、同氏と社長、コーポレート部門を中心に、タスク管理ツール「Trello」を用いて社員の声を集めながら、「かんばん方式」でコンセプトを構築していった。

 延べ床面積、約1580平方メートルのオフィスには、通常のワーキングスペースの周囲にスタンディングデスクやホワイトボード、nu board(持ち運べるホワイトボート)が多数配置され、新しいアイデアが浮かんだり、課題が見つかったりしたらすぐに書き出し、話し合えるようになっている。

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 さらに、リフレッシュのためのカフェスペースやリラックスして作業できる畳やソファを配置したスペース、誰にも邪魔されず集中して作業したいときのブースなどが用意され、状況に応じて最適な環境を選べるようになっている。「人によって集中するための方法や環境は異なるので、さまざまなスタイルから選べるようにしています」(梶原氏)

Photo 勉強会なども開催できる広いセミナールーム。執務室との間は透明なガラスで仕切られている
Photo 壁には、同社のミッションとビジョンが掲げられている

 オフィス作りに当たって重視したのは、スクラムの中でも最も重要な価値観である「透明性」だ。例えば会議室の壁はいずれも透明なガラスでできており、誰が誰と話しているかが一目瞭然。例外は、個人情報を扱うスペースくらいだ。

 「透明性を高めることで“誰が何をしているか”が分かるようになるので、仕事上の事故を防げるようになります。例えば、新しい決定を下したときに、他の人が決定の背景を知らなければフォローしづらいですが、議論の過程や意図がオープンになっていれば話が早いんです」(梶原氏)

Photo 中が丸見えの会議室

 ワークスペースに複数設置されているカンバンには、その時々の「やりたいこと」や「課題」、そのための要件や開発進捗(しんちょく)などがまとまっており、これを見れば、今、どの部署のどのプロジェクトがどんな状況にあるかが一目で分かる。

Photo 執務室の至る所にリアルかんばんが設置されている
Photo 急ぐことが大事なわけではない
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 ビジネスサイドと開発サイドが互いに、プロジェクトの進捗を把握できるだけでなく、「次にどんな施策を仕込んでいるのか」までを見通せる。また、どこかのチームに行き詰まりが生じたときに、他のチームがもっと良い方法を思い付けば支援できることから、プロジェクトの質もスピードも高められるという。

 「情報の透明性を高め、極力オープン化していけば、社員が皆、十分な情報を持てるようになります。知りたいことがいつでも分かるようになれば、人は自律的に動けるようになる。そうして自己組織化が進めば、経営戦略を理解するようになるので、チームが一致した価値観で動けるようになります。eurekaは経営陣が行う経営戦略ミーティングも『Open door』という仕組みによって会議が開かれていたり、誰でも自由に出席可能で1次情報がとれるんです。情報を閉じ込めることなく、必要十分に共有することが大切だと考えています」(梶原氏)

Photo 入社したばかりの人を紹介するボード

 そんな情報共有の意識は、机のレイアウトにも反映されている。一般的な日本のオフィスでは、1つのチームが顔を向かい合わせる形の“島型に並んだ机”に陣取るが、エウレカでは、同じチームの開発者とデザイナーが背中合わせに座り、適宜ディスプレイを見ながら確認できるようにしている。もう少し込み入った話をする必要があればスタンディングデスクで議論して課題を抽出し、結論が出ればまたすぐ作業に戻ってプロジェクトを進めていく。梶原氏によれば、「会議は効率が良くないし、透明性もありません。そもそも、調整のための時間も、誰かが都合が悪くなったときの再調整の時間ももったいない」と指摘する。

 同じ観点から、梶原氏は「コードレビューは時に無駄も発生してしまう悪」だと指摘する。「レビューの依頼先が忙しいと、そこで待たされ、フィードバックをもらったころには『何でこうしたんだっけ?』というように、前にやったことを忘れてしまったりする。スイッチングコストが高いんです」(同氏)。エウレカでは、ペアプログラミングやモブプログラミングを採用し、チーム内でコンテクストを共有しつつ、レビュー待ちの時間をなくしている。

 こうした働き方に共通するのは「新しいコードを素早くリリースし、高い価値のあるサービスを届け、ユーザーに使ってもらってフィードバックを得て、さらに価値を高めていくサイクルをいかに早く回せるか――が、最も重要」(梶原氏)という考え方だ。また月次の振り返りを通じて、「目的も分からないまま、れんがを積む」のではなく、「何のために価値を作っていくのか」を確認し、次のステップにつなげているという。

誰もが参加できる場を作り、皆が意見を出し合って皆で作った「最高のオフィス」

 透明性を高め、情報を共有し、定期的な振り返りを通じて改善していく――。こうしたプロセスとマインドが徐々に会社全体に浸透していく中、情報共有のベースとなるかんばん自体にも社員からさまざまな意見が寄せられるようになり、梶原氏はそのたびに改善を重ねてきたという。

 新オフィスの移転プロジェクトも同様で、新たなオフィスについてのかんばんをTrello上に作成し、「壁にミッションを記したい」「卓球台が欲しい」といった大小さまざまな要望を受け付けた。のべ100あまりの要望を拾っては対応し、採用できなかったものは理由を添えて報告していったという。「やりとりを透明化すると、見えるからこそ“ごり押し”はできないし、皆が主体性を持って事に当たっているという感覚が生まれる」(梶原氏)。プロダクトだけでなく、オフィスに対してもオーナーシップが醸成されているわけだ。

 こうして「皆が思う最高のオフィス、過ごしやすいオフィス、働きやすいオフィス」のアイデアが詰まったワークスペースを作り上げたエウレカ。梶原氏によると、移転後は「社員同士の会話が目に見えて増えた」そうだ。プロダクト開発に携わるメンバーが、ユーザーストーリーをはじめ、サービスに関して細部にわたって会話することが増え、結果としてサービスの質の向上につながっているという。

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 中には「『会社じゃないと集中できない』といって、休日でも自分の作業用にオフィスに出てくる社員もいるほど。電源付きカフェの代わりではないですが(笑)、家でやるより快適で集中できると言っています」(梶原氏)

 何ともうらやましい話に聞こえるが、果たして「うちには無理」なのだろうか、それとも「これならうちにもできるかもしれない」と思えるだろうか――。それはあなた次第かもしれない。

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梶原成親氏プロフィール

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楽天にて、開発環境および生産性を向上させるプロダクトのプロダクトオーナーを経験。スクラムでの開発および運用体制を確立する。2014年、リクルートライフスタイルに入社。HOT PEPPER Beautyの開発責任者として参画。SIer主導のレガシーな開発チームから自立させ、持続的に成長できるチームへ変革させる。

2016年、エウレカに入社。CTO室の責任者、Agileコーチとしてチームビルディングを担当。その他にはモダン情報システム担当、エンジニア採用、技術広報を担当。2018年11月退職。現在フリーランスで活動中。

主な登壇歴に、Regional Scrum Gathering Tokyo 2018, XP祭り2018, デブサミ2017、デブサミ2017夏、Rakuten Technology Conference 2012など。


【聞き手:後藤祥子、高橋睦美】

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