会社が成長し、スタッフが増えて行くに従ってコミュニケーションの壁ができ、離職率が上がってしまった――。コミュニケーションサービスを提供する会社が直面したこんな危機に、社長はどう立ち向かったのか。
一歩足を踏み入れると、まるで森のキャンプ場にいるような気分になる――。この2月に移転したばかりのPhone Appliの新オフィスはそんな空間だ。
鳥の鳴き声や川のせせらぎが聞こえ、どこからかグリーンの香りがほんのり漂ってくる。あちこちに植物の鉢が置かれ、オフィスの中央に設置された大きなテントが存在感を示している。
しかし、よくよく見ると、そこかしこに最新のIT機器が設置されているのが分かる。離れた拠点のオフィス内を常時接続で映し、呼びかければ話もできる巨大ディスプレイ、7台の単焦点プロジェクターを使ったデジタルサイネージ、離れた拠点のスタッフと双方向でコミュニケーションできるホワイトボード、発話した人の方向に自動でカメラが向くテレビ会議システム――といった具合だ。
最高のオフィス空間とIT環境を融合させたという、このオフィスの愛称は「CaMP」。Collaboration and Meeting Placeに由来するというこのオフィスは、どんな思いから生まれたのか――。代表取締役社長の石原洋介氏に聞いた。
Phone Appliは、企業の社内コミュニケーションを促進するソリューションの提供で知られるIT企業。2008年に創業した若い会社だ。クラウド電話帳やIP-PBXまわりのサービス開発を手掛けており、取引先には花王やヤフーなどの大企業が名を連ねる。
そんな同社が直面したのが、会社の成長に伴うさまざまな“壁”だった。事業が拡大し、スタッフの数が増えるに従って、組織の壁によるコミュニケーション不足や機動力の低下、オフィス環境の悪化といった問題が深刻化していったという。
「スタッフが20〜30人の頃は、何も言わなくても日々の私の言動から会社のビジョンや思いが伝わったのですが、100人を超え、組織の形ができてくるとそうもいかなくなったのです。例えば、私が部門ごとのミッションを幹部に下ろしても、部門間にあるオーナーシップのない仕事をお見合いしたり取り合ったりして言い合いになる――といった具合です」(石原氏)
それに追い打ちを掛けたのが、ビジネスモデルの変化だ。創業当時はオンプレミスのビジネスが中心だったが、クラウドモデルへとシフトしたことで顧客への対応が大きく変わり、戦略の変更を余儀なくされたという。「お客さまの志向や要望が変わっていく中で、私たちはそれを先取りしたビジネスモデルを作っていかなければならない。こうした変化に即応するためには、部門を作ったことでできてしまったコミュニケーションの壁をなくす必要があると感じたのです」(同)
コミュニケーションをなりわいにする会社がコミュニケーションの壁で苦しむ――。そんな皮肉な状況に陥ったPhone Appliだったが、問題を解決したのもまた、コミュニケーションだった。
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