庶民と金持ちの格差広がる 消費税増税のポイントは景気対策ではない!小売・流通アナリストの視点(4/4 ページ)

» 2018年12月20日 06時30分 公開
[中井彰人ITmedia]
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小売業は今こそ声を上げよ

 さらに私見を言えば、賃貸不動産収入への課税強化をまず考えるべきだと思う。不動産の賃貸化は相続における主たる節税手段ともなっているため、不労所得を世襲していくための重要なツールとなっていることは周知の事実だ。かつては、大都市に大量に流入する人口に対応して、賃貸住宅を増やしていくことは、一定の社会的要請があったのだろうが、今後は都市周辺部でも空き家だらけになることは確実であり、借家を増やす意義は既に失われている。

 このまま節税目的の借家の増加を放置すれば、賃貸不動産の所有者も空室率が急速に上昇し、事業としての採算が取れない大家さんも続出するはずだ。今のうちに、賃貸不動産の課税強化によって借家の抑制を誘導する方が、皆のためになるはずだ。

 小売業やサービス業などの消費者向けビジネスを行っている業界は、消費税引上げに反対するだけでなく、不労所得への応分負担について議論を誘導すべき立場にあるだろう。消費が落ち込むと、富裕層マーケットを取り込むことで活路を見出そうとする企業はこれまで多かったように思うが、全体の2割以下しかないこのマーケットでカバーしていくのは難しそうだ。失われた20年と言われる時期に、富裕層に特化しようとした百貨店が現状どうなったかを見れば一目瞭然だ。

 かつて、百貨店の最盛期を支えていたのは庶民であったのに、一般ファミリー層対応から逃避して、富裕層重視に転換した百貨店は青息吐息の状況だ。個人消費の8割を占める庶民の財布こそが、実は消費者向けビジネスの主戦場なのであり、このマーケットを慈しみ育てることは、消費者ビジネスで生きていくための要件でもある。

 今こそ、業界の経営層には、庶民に先立って、不労所得にも応分の課税を求める論陣を張っていただきたい。労働力不足に頭を痛める企業が多い中、そうした姿勢は、庶民である従業員の支持も得られると思うのだが、いかがだろう。

著者プロフィール

中井彰人(なかい あきひと)

メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。


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