アメコミの巨匠スタン・リー 知られざる「日本アニメに見いだした夢」ジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(6/6 ページ)

» 2019年01月16日 07時00分 公開
[数土直志ITmedia]
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「ビジネス下手」という日本人との共通点

 そんなするどい嗅覚の一方で、晩年のスタン・リーは、実はマーベル時代ほどの傑作を生み出していない。日本の作品でも当初ソニーミュージックグループ系企業とのアニメ化も視野にいれていた「機巧童子ULTIMO」は15年に連載終了。結局、映像化には至らなかった。「ザ・リフレクション」のさらなるユニバースも語られていない。

 それはスタン・リーがビジネスをあまり得意としていなかったことにも理由がありそうだ。何度も経営危機に揺れたマーベルの中で、スタン・リーは編集人・発行人という立場が大半で経営に深く関わることはなかった。

 1999年に設立されたスタン・リーの名前を冠したベンチャー企業スタンリー・メディアは、場当たり的な経営で詐欺事件としての結末を迎えた。日本アニメと深く関わることになったPOW!Entertainmentも、2017年に全ての権利を香港の承興国際控股有限公司に売却している。

 売却された中には作品の権利だけでなく、スタン・リー自身の名前やイメージ、肖像権も含まれていた。18年5月にはこの取引がだまされた結果であるとして、スタン・リーが訴訟を起こす不可解な展開となった。

 スタン・リーはその生涯で数々の裁判を起こし、起こされてきた。だがそれは経営やビジネスでうまく立ち回れなかったことの裏返しでもある。スタン・リーは生粋のクリエイターだった。

 それはクリエイター気質のためビジネスではうまく立ち回れない日本のエンタテインメント企業やクリエイターをもほうふつとさせる。日本でのスタン・リー人気の背景には、そんなパーソナリティーに対する親近感もあるのではないだろうか。

著者プロフィール

数土直志(すど ただし)

ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。アニメーションを中心に映像ビジネスに関する報道・研究を手掛ける。証券会社を経て2004 年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立。09年にはアニメビジネス情報の「アニメ! アニメ! ビズ」を立ち上げ編集長を務める。16年に「アニメ! アニメ!」を離れて独立。主な著書に『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命』 (星海社新書)。


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