レクサスUX コンパクトSUVと呼ばないで!池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/3 ページ)

» 2019年01月21日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]
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 例えば、カムリと基本アーキテクチャを共用するミディアムセダン、レクサスESの試乗記事において旧知の自動車ジャーナリスト・渡辺敏史氏は非常に鋭い視点を提示した。ベンツやBMWは、プレミアムセダンはFRでなければならないという前提でクルマをつくっている。もちろんそこにはそれなりの意味はあるのだが、過去の価値観を疑うことなく継承していくだけでは新しい時代は開けない。

 例えば、レクサス・セダンのフラッグシップであるLSに対して、ESはFFであるが故にはるかに広大な後席空間を持ち、プレミアムセダンの新しい形を提示し得るものになっている。FRプレミアムセダンの4ドアクーペ化が進み、後席の居住性が軽んじられていく昨今。むしろFFがもたらす空間的余裕の中でならクーペ的スタイルを実現しながら広さも十分に備えるという新しい価値の提案となり得る。

 最新技術の投入によってFFの運転フィールの粗雑さを消し、FRでは得られなかった快適なキャビンを手に入れるとしたら、それはまごう事なき二律双生ではないか? そして、そういうプレミアムの新時代の扉をレクサスが開けようとしている気配を感じるのだ。

ダイレクトシフトCVTは、発進を受け持つ歯車とそこから上を受け持つCVTによるハイブリッド変速機。発進時のギヤ比が勝手に変わらないメリットがある ダイレクトシフトCVTは、発進を受け持つ歯車とそこから上を受け持つCVTによるハイブリッド変速機。発進時のギヤ比が勝手に変わらないメリットがある

 実はUXも同じ文脈で読み解ける。FFベースのシャシーに、物理連結のないモーター駆動の後輪駆動システムを配したAWDは、頻度が高いとは言えない低ミュー路走行より日常のユーティリティを優先しながら、建前としての冒険を諦めずに済むソリューションになっている。

 室内を縦貫するプロペラシャフトやリヤシート下のデフがなくなれば、スペースが豊かになるだけでなく静粛性も向上する。多角的に見て、技術の進歩がプレミアムにおけるFFの存在意義を示し始めたと考えることができるのではないか?

 冒頭に書いた通り、UXの場合、クルマそのものの出来はとても良い。アクセル、ブレーキ、ステアリングの基本フィールがとてもしっかりしており、シートも良い。UXというクルマは、乗ってみるとちゃんと「走り」を軸に「プレミアム」と「ユーティリティ」を両立させたクルマに仕上がっていた。モノとしてはちゃんとテーマ通りに作られており、完成度が高いにもかかわらず、それをうまく言語化できていないのである。

 トヨタのラインアップはTNGAとそれ以外が玉石混淆になっているように、レクサスもまた新時代に向けた世代と、過去のレクサスが混沌を作っていると言えるのかもしれない。そして新世代レクサスのラインアップの全貌が見えたころ、レクサス自身がレクサスを語る新しい言語が生まれるのではないだろうか?

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。

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