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応募殺到! “水槽掃除”と“POP作成”を客に手伝わせる水族館の「ファン作り戦略」ショボいけど、勝てます。 竹島水族館のアットホーム経営論(4/5 ページ)

» 2019年01月22日 07時00分 公開
[大宮冬洋ITmedia]

「水族館マニアの妻へのプレゼントに」「わたしをつかってください」

 掃除イベントの人気は7年目の現在も変わらない。18年末に開催した大掃除イベントには、10人の募集に対して42人もの応募があったという。申し込み文章から伝わってくる熱意などを基準にして参加者を選んだ。イベント当日、筆者も立ち会って参加者全員にインタビューをしたが、いずれも「選ばれて当然」な熱い人ばかりだった。簡単に紹介したい。

 竹島水族館のある蒲郡市に隣接する幸田町から来ていた男性は娘との参加。普段は製造業の事務職として働いており、事務所の掃除は業務の範囲外だ。

 「でも、掃除はとても大事だと思うのです。娘にも掃除の大切さを教えたいと思って参加しました」

 同じく愛知県内から1人で参加した小学生の女の子はすごい。将来は水族館で働きたいという志を持っており、母親の勧めで応募ハガキを書いた。強い思いを書いた上で「わたしをつかってください」と締めくくったという。働き者ぞろいの飼育員たちの心に響いたことは間違いない。なお、「家族がいると甘え心が出る」との判断から両親はイベントには参加せず、娘の掃除作業を館内でずっと見守っていた。

 東京から自家用車でやってきたという女性は「全国の水族館を回るのが趣味」。それを知っている夫がサプライズのプレゼントとして応募。見事に当選し、中学校2年生の娘とうれしそうに水槽を掃除。その姿を夫が館内から撮影をしていた。

 岐阜県から参加した男性と長男のコンビも喜々として働いていたのが印象的だった。館内で次男と三男をあやしながら待っていた妻によれば、深海魚好きな夫が申し込んで当選し、生き物が大好きな長男も大喜びだったという。

 「竹島水族館のイベントにはいろいろ申し込んでいますが当選したのは初めてです!」

 そして、今回の担当飼育員である三田圭一さんがとりわけ目にかけていたのが静岡県からやってきたカップル。近い将来に結婚するつもりで、初めての共同作業として竹島水族館での水槽清掃をやりたいという。愛妻家の三田さんが彼らを見逃すはずがない。

 手書きPOP作成に水槽掃除。どちらも客に生き物をより良く見せるために欠かせない日常業務である。客としては、その一端を体験することで竹島水族館の一員になった気分になるはずだ。これほど効果的なファン作りの施策はなかなか思い付かない。

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