恵方巻きという「伝統」を作ったのは誰か 販促キャンペーンの死角廃棄問題でゆれる(1/3 ページ)

» 2019年01月31日 07時10分 公開
[服部良祐ITmedia]

 2月3日の節分を控え、スーパーやコンビニでは恵方巻きの宣伝に余念がない。金箔など豪華な食材を使用した高級タイプ、奇抜な形の変わり種も登場している。

 もともとは関西発祥の風習とされてきた恵方巻き。Mizkanが2018年2月に調査会社を通じて約3000人にアンケートをとったところ、全国での恵方巻きの認知率は84.2%、喫食率は61.1%となった。いずれもここ数年の数字は横ばいだが、食べた理由として「年中行事だから」が最も多く挙げられるなど、行事として一定の支持を得ているようだ。

photo 恵方巻きは本当に「伝統」か?(写真はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 ただ、コンビニの店頭のポスターを見るたびに「子供の頃、こんなに恵方巻きを目にしたかな?」と感じる人も少なくないのでは。SNS上では買ってきた商品や自作の料理を楽しむ様子がつぶやかれる一方で、「業界からの押し付けにはへきえき」「習慣が無いし買わない」などといった意見も上がっている。

 加えてここ数年、社会問題化しつつあるのがスーパーやコンビニでの恵方巻きの廃棄問題だ。SNS上で問題視する声が相次ぎ、あえて大量生産を辞めたと表明したスーパーの事例も話題になった。1月には、農林水産省が流通業界に需要に見合った販売を行うよう要請した。特定の商品について国が食品廃棄の削減を呼びかけるのは異例だ。

 他の年中行事と比べても、少し奇妙に見える恵方巻きという「伝統行事」。廃棄問題が取り沙汰されるほど一斉に、大量に小売りの店頭で売られるのはなぜか。そもそも恵方巻きはどこから来て、誰が「伝統」にしていったのかを追った。

花街での遊びが発祥?

 恵方巻きの由来には諸説あるとされるが、「節分の巻きずし」をテーマに研究している熊本大学准教授の岩崎竹彦さんによると、大阪・船場(せんば)の旦那衆の遊びが発祥とみられる。大阪のすし店が所蔵していた1932年に発行されたすし店の組合の「巻寿司と福の神」というタイトルのチラシに、「節分の日に丸かぶり」「この流行は古くから花柳(花街)界にもて囃されていました」などと恵方巻きと同様の説明がみられる。岩崎さんによると、現在の恵方巻きに当たる巻きずしに関するチラシでは、これが現存する最古のものだという。

 こうした資料や記録に残る証言などを元に、岩崎さんは「恐らく江戸末期くらいまでさかのぼれるのでは」と推測する。ただ「近畿地方の習慣というより、あくまで大阪・船場に近い花街で旦那衆がやっていた遊びだった」(岩崎さん)。ちなみに1940年発行の同じすし店組合のチラシでは「幸運巻寿司」というタイトルになっていた。

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