テレビの「CMまたぎ」がなくなる日 “減らして効果を上げる”奇策とは世界を読み解くニュース・サロン(2/4 ページ)

» 2019年02月21日 07時30分 公開
[山田敏弘ITmedia]

米テレビ局がCMを減らす“奇策”

 2018年、米国の広告業界はかなりの好況だった。広告収入全体を見ると、前年比で7%ほど増加し、2080億ドルを超える歴史的な年になったという。というのも、18年はサッカーのワールドカップや米中間選挙など大きなイベントがめじろ押しだったからだ。

 この広告収入全体のうち、急成長しているネットメディアやネット配信、デジタル向けの広告は史上初めて広告全体の52%に達した。

 その一方で、テレビCMではほとんど広告収入が増加しなかった。米調査会社のマグナによれば、16年頃からはネットなどに押されて、年を追うごとにテレビの広告収入が減少しており、18年のように大きなイベントが続いた年でも減少分をカバーするほどにしかならなかった。要は、大きなイベントがなかったら間違いなく収入は減少していたのである。専門家らによれば、19年はデジタル広告がさらなる伸びを見せると予想されている半面、テレビ業界では大きなイベントがないために危機感が漂っている。

 そんな状況にテレビ局が頭を悩ませているのは言うまでもない。そこで、状況を変えるべく奇策を考え出したという。テレビと比べてCMが少ないネット配信に対抗するため、米大手のNBCが、他社に先駆けてテレビでもCMを極力減らそうという試みを本気で始めているのだ。

 NBCのアイデアはこうだ。CM全体の量を10%も減らし、CMを流す長さも平均で20%短くする。普通に考えれば、CMの数を減らして長さを短くすれば、それだけ広告収入が減ることになるのだが、そうならないように「プライム・ポッド」と呼ぶCMを流すのだという。

 プライム・ポッドとは、全てのゴールデンタイムの番組を対象に、1分間の枠でCMを番組の開始前または終了後に流す。その1分間の中でCMは最大2本のみ(CM全体の約8割が30秒CM2本で、残りの2割は60秒CM1本のみになる予定)。そして1本のCM料金を、現在の平均広告料に75%ほど上乗せするという。

 NBCは新たなCMのスタイルを探す中で、プライム・ポッドに行き着くまでに、17種類のフォーマットを実験したという。事前の実験では、プライム・ポッドなら、CMが視聴者の記憶に残る割合は驚異の86%になることが分かった。ちなみに業界では、一般的にはCMが記憶に残る割合は65%〜70%ほどと言われているらしい。このような結果になった理由は、数が少ないほうがインパクトがあるからだ。

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