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なぜ宿題は「無駄」なのか?――“当たり前”を見直した公立中学校長の挑戦麹町中学・工藤勇一校長の提言【前編】(1/4 ページ)

» 2019年05月08日 05時15分 公開
[工藤勇一ITmedia]
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本記事は、書籍『学校の「当たり前」をやめた。 ― 生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革 ―』(著・工藤勇一、時事通信社)の中から一部抜粋し、転載したものです。


 宿題もなく、クラス担任もなく、中間・期末試験もない――。学校の「当たり前」を見直し、メディアや教育関係者、保護者などから注目されている公立中学校が東京都にある。千代田区立麹町中学校だ。

 なぜこのような大胆な改革を進めているのだろうか。麹町中学の校長である工藤勇一氏に、3回に分けてその真意を語ってもらった。前編では宿題を廃止した理由に迫る――。

photo 工藤勇一氏:千代田区立麹町中学校校長。1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学卒。山形県・東京都の中学校教諭、新宿区教育委員会指導課長などを経て、2014年4月より現職。 現在は安倍首相の私的諮問機関である「教育再生実行会議」の委員をはじめ、経産省「EdTech委員」、産官学の有志が集う「教育長・校長プラットフォーム」発起人など多数の公職についている。『「目的思考」で学びが変わる—千代田区立麹町中学校長・工藤勇一の挑戦 』(多田慎介著、ウェッジ)も話題に

分かっている人にとって「宿題」は無駄な作業

 全国津々浦々、どの学校でも宿題が出されています。その目的は何かと問われれば、多くの学校関係者や保護者は、「子どもの学力を高めること」「学習習慣を付けること」と答えると思います。

 しかし、本当にその目的は達成されているのでしょうか。

 自宅で宿題に取り組む子どもたちの実態を思い浮かべてみましょう。

 例えば、数学の計算問題が20問出されていたとします。勉強がよくできる子は、すでに解ける問題から、あっという間に片づけてしまうでしょう。一方で、苦手な子や分からない子は、解ける問題だけを解き、解けない問題はそのままにして翌日、提出することが多いのです。

 自ら学習に向かう力を付けて、学力を高めていくには、自分が「分からない」問題を「分かる」ようにするプロセスが必要ですが、多くの宿題においては、そのことが欠けています。すでに分かっている生徒にとっては、宿題は無駄な作業で、分からない生徒にとっては重荷になっているように思います。宿題を出すのであれば教師は、「分からないところをやっておいで」と声掛けしなければいけないはずです。

 「分からない」ことが「分かる」ようになるためには、2つの作業が必要です。

 一つは分からないことを聞いたり、調べたりすること。2つ目は繰り返すことで定着させることです。この定着させる方法については、さまざまなものがあります。書き写したり、読んだり、集中して聞いたり、何かと何かを関連付けて覚えたりなどの方法がありますが、何より大切なことは、自分の特性に合った方法を見つけることです。そして、その適した繰り返しの方法こそが、その人の生涯を支えるスキルとなっていくのです。

 小学生の頃、「漢字の書き取りテストで間違えたら、1文字につき20回書いて提出すること」などと宿題を出され、一つひとつ、漢字を確認するのではなく、「作業」を早く終わらせるべく、「へん」だけを先に20個書き、その後に「つくり」を20個埋めていくなんて「作業」をした人もいるでしょう。そのとき、「作業」を淡々とこなす際の脳は、ほぼ思考停止状態で、早く終わればいいなと、「やらされている」気持ちで一杯になっていたのではないでしょうか。

photo 麹町中学校が目指す生徒像(出典:麹町中学校「進取の気性」
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