何分後に雨が降る? 「ハイパー天気予報」が災害大国・日本を救うかもしれない世界を読み解くニュース・サロン(4/5 ページ)

» 2019年05月09日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

「自分は大丈夫」と逃げ遅れるケースを防ぐ

 このサービスが広く使われるようになれば、世界中で多くの命が救われることになる。というのも、エルカベツ氏によれば「過去30年間で53万5000人以上が洪水によって命を失っています。18年だけを見ても、洪水によって1万人以上が死亡している。インフラが脆弱で、信頼できるデータもないような途上国では、洪水などによる死亡者や負傷者はもっと深刻になっているのです」という。

 また日本では、20年に都市部から5Gがスタートする。5Gでは数多くの基地局の設置が必要になるが、そうした機器が増えれば増えるほど、正確でピンポイントな天気予報が可能になる。5Gの高速な多接続通信が広く利用されるようになれば、さまざまなIoT機器や自動車がネットワークにつながっていくが、それらのデータも天気予報に使える。

 ただ一方で、こんな疑問も出てくる。人々がプライバシーに敏感になっている今、こうした通信機器などからのデータをそんなに簡単に手に入れることができるのかということだ。筆者がそれを問うと、「個人が特定されるようなプライバシー情報は全くこのシステムに必要ないし、集めることもしない。あくまで天気予報のためのデータを提供してもらっているのみです」と答えている。それを条件にしてデータ提供を受けているという。

 ではクライマセルの予測で、前もって水害などが起きる可能性が正確に予測されれば、どんな災害対策ができるのか。例えば、直ちに大量のドローンを水害のリスクのある地域に送り込み、現地のパトロールやアセスメントをさせることで、現場の状況を瞬時に把握できるようになる。

 というのも、18年に気象情報サービス会社のウェザーニューズが行った「減災調査2018」では、西日本豪雨の際に84%もの人が避難をためらったとの結果が出ている。避難しなかった理由は、「家のほうが安全だと思った」が49%、また44%が「自分の周辺は大丈夫だと思った」と答えている。逃げ遅れる人が後を絶たない背景にはこうした認識があるということだ。

 5G時代に入りクライマセルが導入されたら、逃げ遅れるようなケースを防ぐために、ドローンで熱を検知して人の位置を完全に把握したり、ピンポイントの注意喚起や避難指示をしたりできる。中央システムに現場のドローンからの大量のデータを集約し、迅速な救援活動にも生かせるようになるだろう。

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