着工できないリニア 建設許可を出さない静岡県の「正義」:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)
6月11日の静岡県知事会見では、「自然環境破壊への代償措置を求める」「他県で地元の要求に応じて駅を作った費用の平均ぐらいが額としては目安になる」と、金銭補償にも言及したと報じられた(朝日新聞6月12日)。
JR東海は通過する県に対して、中間駅の設置費用約800億円を自己負担する。静岡県内はトンネルであり、沿岸主要都市からは遠いため駅はできない。しかし、通過するからには平等に、同じ予算で代償せよという。ただし、その使い道は静岡県にとって経済復興ではなく自然復興のはずだ。
しかし、代償、800億円という数字が先走って誤解を生んでいる。翌日の6月12日、JR東海社長は静岡県の要求には応じられないと語った。理由は「リニア開業で静岡県が受ける恩恵は大きい」から。つまり、経済的代償と勘違いしている。
確かに、リニア中央新幹線の開通で東海道新幹線の運行形態は変わる見込みだ。JR東海は18年1月から、浜松・静岡・三島駅に、「リニア開業後のダイヤ予想図」を掲示している。現在は東京発で最大「のぞみ10本、ひかり2本、こだま2本」(臨時列車用ダイヤを含む)だ。これが予想図では「のぞみ4本、ひかり+こだま10本」になるかのように見える。
これは確定した話ではないし、のぞみからリニアへの移行が進めば運行総数が減るから「のぞみ3本、ひかり+こだま8本」になるかもしれない。また、京都・大阪以遠へ向かう客が名古屋乗り換えを嫌えば、のぞみは少ししか減らない。それでもダイヤにゆとりが出て、ひかり、こだまを増やす余地はできる。
- こじれる長崎新幹線、実は佐賀県の“言い分”が正しい
佐賀県は新幹線の整備を求めていない。佐賀県知事の発言は衝撃的だった。費用対効果、事業費負担の問題がクローズアップされてきたが、これまでの経緯を振り返ると、佐賀県の主張にもうなずける。協議をやり直し、合意の上で新幹線を建設してほしい。
- 新幹線と飛行機の壁 「4時間」「1万円」より深刻な「1カ月前の壁」
所要時間が4時間以内なら飛行機より新幹線が選ばれるとされる「4時間の壁」。それよりも「1万円の壁」を越えるべき、というコラムが話題になったが、新幹線の“壁”は他にもある。航空業界と比べて大きな差がある、予約開始「1カ月前」の壁だ。
- 自動運転路線バス、試乗してがっかりした理由
小田急電鉄が江の島で実施した自動運転路線バスの実証実験。手動運転に切り替える場面が多く、がっかりした。しかし、小田急は自動運転に多くの課題がある現状を知ってもらおうとしたのではないか。あらためて「バス運転手の技術や気配り」の重要性も知った。
- 東急・相鉄「新横浜線」 新路線のネーミングが素晴らしい理由
東急電鉄と相模鉄道は、新路線の名称を「東急新横浜線」「相鉄新横浜線」と発表した。JR山手線の新駅名「高輪ゲートウェイ」を巡って議論が白熱する中で、この名称は直球で分かりやすい。駅名や路線名は「便利に使ってもらう」ことが最も大切だ。
- 北海道新幹線札幌駅「大東案」は本当に建設できるか
もめにもめた北海道新幹線札幌駅問題は、JR北海道が土壇場で繰り出した「大東案」で関係者が合意した。決め手は「予算超過分はJR北海道が負担する」だった。これで決着した感があるけれども、建設業界筋からは「本当に作れるか」という疑問の声がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.