着工できないリニア 建設許可を出さない静岡県の「正義」杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)

» 2019年06月21日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

補償問題にすり替えられた?

 6月11日の静岡県知事会見では、「自然環境破壊への代償措置を求める」「他県で地元の要求に応じて駅を作った費用の平均ぐらいが額としては目安になる」と、金銭補償にも言及したと報じられた(朝日新聞6月12日)。

 JR東海は通過する県に対して、中間駅の設置費用約800億円を自己負担する。静岡県内はトンネルであり、沿岸主要都市からは遠いため駅はできない。しかし、通過するからには平等に、同じ予算で代償せよという。ただし、その使い道は静岡県にとって経済復興ではなく自然復興のはずだ。

photo リニア中央新幹線施設の位置。トンネル非常口や発生土置き場の候補地は、過去に伐採されている工事ヤード跡地や人工林などを選定しているという(出典:JR東海「中央新幹線(東京都・名古屋市間)環境影響評価書」)

 しかし、代償、800億円という数字が先走って誤解を生んでいる。翌日の6月12日、JR東海社長は静岡県の要求には応じられないと語った。理由は「リニア開業で静岡県が受ける恩恵は大きい」から。つまり、経済的代償と勘違いしている。

 確かに、リニア中央新幹線の開通で東海道新幹線の運行形態は変わる見込みだ。JR東海は18年1月から、浜松・静岡・三島駅に、「リニア開業後のダイヤ予想図」を掲示している。現在は東京発で最大「のぞみ10本、ひかり2本、こだま2本」(臨時列車用ダイヤを含む)だ。これが予想図では「のぞみ4本、ひかり+こだま10本」になるかのように見える。

 これは確定した話ではないし、のぞみからリニアへの移行が進めば運行総数が減るから「のぞみ3本、ひかり+こだま8本」になるかもしれない。また、京都・大阪以遠へ向かう客が名古屋乗り換えを嫌えば、のぞみは少ししか減らない。それでもダイヤにゆとりが出て、ひかり、こだまを増やす余地はできる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.