佐賀県は新幹線の整備をこれまでも求めていないし、今も求めていない――。4月26日、政府与党の長崎新幹線検討委員会で、佐賀県知事の発言は衝撃的だった。佐賀県に対する、政府、長崎県、JR九州の配慮の全否定だ。とんだちゃぶ台返しだ。いや、佐賀県から見れば、ちゃぶ台すらなかった。しかし、佐賀県の考え方は一貫して筋が通っていた。どんな譲歩案を示したところで、それが新幹線建設を前提とするなら、受け入れられない。
佐賀県が長崎新幹線のフル規格新幹線化やミニ新幹線化に反対していることは承前。その理由は佐賀県の費用対効果、負担金だと考えられていた。だからこそ「長崎県が肩代わりすればどうか」「JR九州の負担を増やしたらどうか」などと議論されてきた。政府もそろばんを何度もはじき直して、佐賀県の主張する負担金額より低い見積もりを示してきた。
【注】フル規格新幹線:東海道新幹線と同等の完全な新幹線。ミニ新幹線:山形新幹線や秋田新幹線のように、在来線の線路を改造してフル規格新幹線から直通させる新幹線
長崎新幹線建設計画の経緯については後述するが、確かに費用対効果という面で佐賀県のメリットは少ない。対福岡圏という意味では、新幹線による所要時間の短縮は15分程度。現在、博多〜佐賀間は特急「かもめ」で37分だ。37分を22分にするための佐賀県の負担は約1200億円。これは政府与党の最新の試算である。しかし、自治体負担分については地方債を発行でき、地方債の元利償還金については国からの地方交付税が充当できる。差し引き、佐賀県の実質負担金は660億円程度だという。これでも佐賀県は首をタテに振らない。
これは佐賀県が新幹線の費用対効果を認めていないからだ、と多くの人々は考えていた。そもそも長崎新幹線については、長崎県と佐賀県の費用と効果のバランスが悪い。博多からの時短効果は長崎県が大きい。しかし新幹線の建設距離は短いから費用も少ない。佐賀県は時短効果が小さいにもかかわらず、建設距離は長崎県より長く費用負担も大きい。不公平な枠組みである。そんな背景もあって、長崎新幹線の正式名は「九州新幹線(西九州ルート)」となった。長崎を前面に出してはいけない。佐賀県に配慮しよう、というわけだ。
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