こじれる長崎新幹線、実は佐賀県の“言い分”が正しい杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)

» 2019年05月17日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 国が「フリーゲージトレイン開発が遅れた責任」を取り、賠償金として費用負担するという案も出たらしい。これはひどい。フリーゲージトレインの開発者は真摯(しんし)に取り組んでいるはずで、現在もそうだろう。勝手に期限を切られただけで、遅れたわけではない。

 【注】フリーゲージトレイン:左右の車輪の間隔を変化させて、新幹線の軌間と在来線の軌間を直通できる車両

photo フリーゲージトレインの試験車両。採用の理由は「新幹線を求めていないから」だった

 フリーゲージトレインの技術自体は必要で、実用化すべきである。国が「未完成の技術を盛り込んで新幹線計画を進めた責任」を取るなら分かる。「開発遅れの責任」と、技術者に転嫁してはいけない。これは技術開発に関わる者全てを侮辱している。ものづくりニッポンを掲げるなら、絶対に言ってはいけない。誰が言い出したか知らないけれど、失言の責任を取るべきレベルだ。

 ただし、これらも含めてカネの問題は全て邪推だった。もともと佐賀県は新幹線を必要としていない。カネの問題ではない。費用負担がゼロでも新幹線はいらないと言い切った。いったい、どこから認識がすれ違ってしまったか。

photo 現在、長崎新幹線の着工区間は武雄温泉〜長崎間だけ(出典:国土交通省報道資料 九州新幹線(武雄温泉・長崎間)工事実施計画の変更認可について

佐賀県は「在来線経由」で合意した

 佐賀県の反対の理由は事業費負担だ。そう思わせた原因は佐賀県にもある。これまで佐賀県は、佐賀県側の事業費を挙げ、効果に対して大きすぎると訴え、報道されてきたからだ。これでは「駆け引き」を疑われても仕方ない。しかし、ここにきて「はじめからなかった話」と言い出した。これは戦術の変更に見える。

 果たして「佐賀県が今までも新幹線を求めていない」は本当だろうか。知事の発言だから、そこは間違っていないはず。しかしそこで疑問がある。佐賀県の合意なしで、なぜ長崎新幹線は着工できたか。整備新幹線の着工の条件は「費用対効果の算定」「運営事業者のJRの合意」「沿線自治体とJRの並行在来線の処理の合意」である。つまり、自治体の合意なしでは整備新幹線を着工できないはずだ。

 実はここに落とし穴があった。鳥栖〜佐賀〜武雄温泉間は、もともと並行在来線問題がなく、合意すらされていない。合意は武雄温泉〜長崎間だけだった。

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