リニア建設を阻む静岡県――川勝知事の「禅問答」がもたらす、これだけの弊害静岡空港新駅の設置が「交換条件」か(3/5 ページ)

» 2019年07月23日 05時00分 公開
[冷泉彰彦ITmedia]

「リニアへの誤解」

 冷静に考えればそうだが、ではどうして川勝知事は「代償の要求」などという、言ってみれば「ケンカ腰」の対応を続けているのだろうか。その背景には、ある種の「リニア叩(たた)き」が一部のメディアで積極的に報じられるなど、「リニアへの誤解」がある。この「超電導リニア」技術を使った「中央新幹線」というプロジェクトの意義が、静岡県だけでなく、全国の世論に正しく伝わっていないという現状があるため、「リニアへの誤解」をベースとして落とし所のない論争が続けられているのである。

 誤解というのは、多岐にわたっている。例えば技術的には「強力な電磁石の中を進むので、腕時計をつけて乗車すると時計が狂ってしまう(実際は強いシールドがされており、乗客が強い磁力にさらされる事はない)」や、「莫大な電力を消費するのでリニア推進派は浜岡原発を無理に稼働させたがっている」などといった誤解は、今でも世論の中にはある。あるいは「JR東海の葛西敬之名誉会長は、安倍晋三総理との人間関係を利用してリニアを推進している」などという報道も散見される。

 与野党の力関係を巧妙に利用しながら三選を果たしてきた川勝知事には、こうした世論の中の「リニアへの誤解や偏見」も計算のうちというところかもしれない。もしかすると、論争を吹っかけておいて、最後は知事自身が否定している経済的な解決へと落とし所を持っていく腹づもりもあるのかもしれない。

 そんなことは絶対にないものだと願いたいが、もしそうだとしたら……これは非常に悲しむべき問題である。

 まずリニアの本当の意義というのは航空に対する代替である。仮に東京(品川)=大阪がリニアで結ばれれば、羽田=伊丹の航空路線は、国際線乗り継ぎ便以外は消滅するだろう。その場合、リニアの二酸化炭素排出は、航空と比較すると約3分の1まで減らすことができる。その意味で、リニアという乗り物は立派なエコなのである。

photo リニアの二酸化炭素排出は、航空の約3分の1まで減らせる(山梨県立リニア見学センターのWebサイトより)

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