リニア建設を阻む静岡県――川勝知事の「禅問答」がもたらす、これだけの弊害静岡空港新駅の設置が「交換条件」か(2/5 ページ)

» 2019年07月23日 05時00分 公開
[冷泉彰彦ITmedia]

静岡県自身が「静岡県の利便性向上」を阻害

 ところで、27年にリニア中央新幹線が開業した場合、現在の「のぞみ」の持っている速達性という機能がリニアに移行した後は、名古屋以東の東海道新幹線は「静岡新幹線」と言っていいぐらい、静岡には利便性を提供できることになっている。

 具体的には、東京=名古屋間の各駅停車タイプの「こだま」や、静岡県内での停車駅を増やした「ひかり」を増発できることになる。では、その時点で「静岡空港新駅」建設の可能性はどう考えられるのだろう? 一部には、リニアが開通していれば「のぞみ」を1時間に12本走らせるなどということは必要なくなっているはずで、ダイヤの面で新駅が大きな障害になることは減るという考え方もある。

 だが、冷静に考えてみれば新駅設置が非現実的であることには変わらない。例えば、27 年以降の東海道新幹線では、「浜松=東京」の利便性、「静岡=名古屋」の利便性は高まるであろう。現在も新幹線での通勤・通学が見られる区間ではあるが、27年以降はより速達性と輸送力を高めることになろう。

 その場合に、仮に「掛川=空港新駅」の間で「こだま」がノロノロ走っていれば、せっかくの「静岡新幹線」の利便性は低下してしまう。浜松と東京を、あるいは名古屋と静岡を結ぶ「ひかり」は、「こだま」に追い付いてしまって減速を強いられる。また、「こだま」にしても空港新駅と掛川間のノロノロのせいで、後ろに複数編成の「ひかり」を待たせたのであれば、掛川ないし静岡で何本も通過待ちを強いられて、「こだま」自体の所要時分も大きく延びてしまう。これでは「のぞみ」の輸送力の相当部分が「リニア」に移動しても、静岡県内の利便性は全く改善しないことになる。

 つまり、空港新駅を無理に設置してしまうと、リニア開業によって静岡県内で東海道新幹線の利便性が改善するチャンスを、みすみす潰(つぶ)すことにもなりかねない。県として、そうした鉄道ダイヤのメカニズムを理解しているのであれば、空港新駅構想というのは「真意」ではないのかもしれない。

photo すでに静岡県内には6つの東海道新幹線の駅があるため、空港新駅ができると東海道新幹線のダイヤに悪影響を及ぼす(リニアと東海道新幹線のルート、アイティメディア作成)

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