リニアというのは、電力を消費しつつ高周波数で磁極のNとSがスイッチする機構、つまり電気モーターにおける回転する部分というのは、車体の側にはない。可変する電磁石は「ガイドウェイ」と呼ばれる両側の壁に埋め込んである。このガイドウェイに埋め込んだ電磁石は、特殊な合金を使用した技術の塊(かたまり)となっている。
また車両側にある超電導磁石というのは、極低温に冷却することで超電導現象、つまり電気抵抗がゼロになるという特殊な技術が使われている。どちらも、旧国鉄総研時代から日本が国策として積み上げてきた研究開発の成果である。だが、こうした先端技術の粋であるリニアの各部品は、東京=名古屋=大阪の区間だけではメーカーとして「十分なマーケット規模をもつ」とまでは言えない。
日本における成功事例を確立した上で、世界各国に採用されていけば、各部品メーカーの収益力を上げることができるし、その上で、各国のリニアが稼働し、必要に応じて車両やインフラを定期的に更新していくことによって、技術を後世に継承しやすくなる。つまり、リニア中央新幹線というのは、日本の技術の成果であると同時に、その技術を後世に伝えるための「持続可能なだけの普及規模」を獲得する、そのための「ショーケース」でもある。
また、1877年に新橋=横浜間の開業をして以来、蒸気機関車、ディーゼル、電気機関車、新幹線と積み上げてきた日本の鉄道技術に加えて、日本のエレクトロニクス産業や重電産業が積み上げてきた技術の集大成、リニアはそのように位置付けることもできる。現在の日本では、スマホやコンピュータなどの先端技術ではグローバルな競争と分業の中で、部品・素材産業の地位に甘んじているのが実情だ。また、航空機製造などかつては得意分野であった領域でも苦戦を強いられている。
そんな中で、この超電導リニアについては、大規模かつ長距離の輸送システムとしては、現在でも「世界のトップを走っている」と言っても差し支えないだろう。これを実用化し、更には海外へ売り込むことができれば、日本の技術に端を発した新たなビジネス可能性が生まれるだろう。だが、現実には、今回問題になっている通り、着工許可が出されないままプロジェクトは遅延し、時間だけが過ぎている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング