クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

自動車メーカーを震撼させる環境規制の激変池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)

» 2019年07月29日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
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ポートフォリオの番狂わせ

 ところが4つの番狂わせがあった。1つ目はHVが思ったより健闘し、むしろA群の役割を担い始めたことだ。2つ目はこれまで書いてきた、中国がEV集中優遇をやめてHVにリソースを振り向けそうな流れだ。3つ目はディーゼルの不振。4つ目はマイルドハイブリッドの効果の読み違いである。

 ここからはちょっと複雑なのでモデルケースを設けて説明したい。1つ目の例はフォルクスワーゲンである。フォルクスワーゲンはディーゼルで底上げを図りつつ、EVで平均を引き上げる作戦を取っていた。

 しかし自らが引き起こしたディーゼルゲート事件で、せっかくディーゼルにシフトしつつあったマーケットをガソリンに引き戻してしまったのだ。そこへ泣きっ面に蜂とばかりに、中国がEV絶対優遇を変更しHVとの両面作戦にシフトしそうだ。こうなるとフォルクスワーゲンは厳しい。中国で今まで通りEVが売れないだけでなく、その余剰を他国で売りさばこうという作戦までもが頓挫する。

 こうしてA群に不穏な空気が漂い始めたことに加えて、ディーゼルと共に底上げ要員であったマイルドハイブリッドに思ったほどにはCO2削減効果がないことが分かってきた。フォルクスワーゲンに起死回生の策があるとすれば、徹底したロビー活動で、もう一度ディーゼルを主力に引き戻して、未達幅を減らして傷をいかに小さくするかだ。CAFEの実質的罰金であるクレジット制度は、未達分を金銭購入する形になるので、基準値に近ければ未達でも傷は浅いのだ。が、A群、B群ともに当てが外れてしまっては相当に厳しいことになる。

 マツダのケースはどうだろう? マツダは「内燃機関を極める」と方針を定め、SKYACTIV-Xによる希薄燃焼エンジンを必死にモノにした。これがマイルドハイブリッドであることを不思議に思う人が少なくないようだが、厳しい現実として、95グラム規制の時代には、もう内燃機関単体ではどうやってもCAFEはクリアできない。だからマツダはマイルドハイブリッドとの組み合わせでこれをクリアしようと考えた。

 しかしマツダにとって誤算だったのは、マイルドハイブリッドの効果は限定的だったことだ。実際SKYACTIV-XのCO2排出量は96グラムで、おそらくマイルドハイブリッドモデルとしては最良の成績になっているのだが、1グラムだけ規制値にとどかない。

SKYACTIV-Xを搭載したMazda3

 問題はこのSKYACTIV-XがマツダにとってはA群であることだ。B群としては見事な成績だが、平均値を引き上げる力はない。来るべき2025年の規制となるとほとんどクリアするのは不可能に近い。さらに気の毒なのはせっかく素晴らしいディーゼルを開発しながら、ディーゼルゲート事件のあおりを食らって、こちらも予定ほどには成績向上に貢献できていない。

 マツダは先代アクセラでトヨタのハイブリッドシステムを組み込んだモデルを販売したが、これが見事に売れなかった。パワートレインは存在するのだから小改良を加えるだけでストロングハイブリッドもリリースできるはずだが、売れなければどうにもならない。状況的にはそれにもう一度チャレンジするしかないのだが、果たして売れるのか? HVがA群の主砲である理由は、ひとえに売れるからだとすれば、売れなければ意味がない。現在マツダはロータリーエンジンによる発電システムを備えたシリーズハイブリッドを開発中だ。日産ノートe-POWERと同様にエンジンは純粋に発電、駆動はモーターが受け持つシステムになる。

 という具合に今、4つの番狂わせで、CAFE規制をクリアできるかどうか、世界の自動車メーカーの戦略が大混乱をきたしている。全方位作戦を遂行中のトヨタだけが涼しい顔、という絵柄が否応ない現実である。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。


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