クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

自動車メーカーを震撼させる環境規制の激変池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2019年07月29日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 ちょっと規制値そのものを見てみよう。図表1にプロットされた四角(□)は各メーカーの企業平均値で、縦軸はCO2排出量平均値、横軸は全販売車両の車両重量平均値となっている。重量のある大きいクルマは、どうしてもCO2排出量が多くなるから規制値の軸は右上がりに傾いているのだ。

図表1 各メーカーの、CO2排出量平均と車両平均重量をプロットした図(=トヨタ資料より)

 2019年の130グラム規制までは、内燃機関オンリーでもクリアできた。それは図表を見ても明らかだ。ハイブリッド車(HV)も電気自動車(EV)も持っていない会社も例外なくクリアできている。

 しかし20年の95グラム規制になると、現状1社もクリアできていない。EV専門メーカーはいいとして、HVが全出荷台数の4割に達しているトヨタだけがこれをクリアできる見込みがある。逆にいえば小規模メーカーしか存在しないEV専業を別にすれば、自動車メーカーの中で、20年のCAFE規制をクリアできそうなのはトヨタだけで、その方法はHV以外にないということでもある。

EVでCAFEをクリアするには

 ちなみに18年通年のEV/プラグイン・ハイブリッド(PHV)のメーカー別グローバル販売台数を見てみると、トップのテスラが約24万500台。2位の比亜迪汽車(BYD)が約22万700台。3位は北京汽車(BAIC)で約16万5000万台。3位のBMWが約12万9400台。4位の日産が9万7000台となっている(兵庫三菱自動車販売グループ調べ)。

 本当はEVのみのデータが欲しいのだが、適当なデータがない。上記の数字で台数の全てがEVというのはテスラだけで、他社はPHVを含む数字。例えば日産の場合、EVはリーフのみで、これを抽出すると8.7万台という実績である。

 EVを作っていても、専業ではない日産やフォルクスワーゲンにとって、このCAFE規制は相当に苦しい。19年度の日産のグローバル販売台数は554万台。世界有数のEVメーカーである日産ですら、販売実績に占めるEVの比率はわずか1.57%。これでは企業平均値を下げるには全く焼け石に水である。

 ざっくりした話だが、HVの燃費低減効果は30〜40%といわれており、近年40%に近づきつつある。当然ながらEVは、単体で見ればHVよりCO2抑制効果が高い。細かい話を無視してEVはゼロエミッションだとみなすと、4割がHVであるトヨタと同程度に平均値を引き下げるには以下の計算式が成り立つ。

 40/100(HVの燃費削減率)×40/100(トヨタのHV台数比率)=100/100(EVの燃費削減率)× X/100(EV台数比率)


 つまり計算上は全販売台数の16%程度EVを売ればいいことになるのだが、日産でさえ足元の現実が1.57%であり、しかも期限が来年という状況に鑑みれば、ちょっと勝算があるとは考えにくいのである。

 しかも日本の新燃費基準の策定会議では、EVへの逆風も始まっている。発電やEV生産に消費されるCO2を無視するのは現実的ではない、という流れからEVをゼロエミッションと見なすべきかどうかの議論も出ている。EVが普及すると共に、今まで受けてきた諸々のお目こぼしを徐々に奪われるのは当然の流れではあるが、EVの普及率が0.1%未満であることから、来年度以降に持ち越しとなった。

 長期的にはEV普及は大事なことだと考えると、そのあたりの厳格化はいくら何でも時期尚早だと筆者も思う。それもこれも「時代はすでにEVで、旧弊な内燃機関の時代は終わりだ」と騒いだ人たちに原因がある。シェア0.1%未満という現実を冷静に見るべきだ。内燃機関から見たらEVも燃料電池車(FCV)も同じく0.1%未満。誤差の範囲でどんぐりの背比べをしても仕方がない。実態を見ればまだまだ嬰児(えいじ)にも等しいEVの現状を誇大に騒ぎ立て、世間を見誤らせれば、一人前に負担を求められるのは当然の流れになる。EV普及に良かれと思って騒いでいるのだろうが、それが首を絞める場合もあることは肝に銘じておいた方がいい。

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