「最近のクルマは燃費ばかり気にしてつまらなくなった」。そういう声をよく聞く。分からないではない。本当にレスポンスのリニアリティが良かったのはキャブレターの時代だった。コップに入れた水をこぼさないように運転するという伝説があるが、本当にあれができる人によれば「あんなことができたのはキャブの時代」だそうだ。
しかしながらそれを懐かしんでも仕方がない。自動車メーカーが燃費を気にするのは、売れる売れないという目先のカネ勘定ではなくて、燃費基準に達しないと罰金で制裁されるからだ。
欧州にはCAFE規制という規制があり、自動車メーカーは企業単位で販売車両のCO2の排出量平均値を算出され、基準を達成できなければ巨額の「クレジット」を買わなければならない。その金額はすぐに数十億円単位になる。CO2の排出量は燃料の消費量とほぼ比例的関係にあるので、CAFE規制をクリアするということは、とりもなおさず燃費を良くするということでもある。
さて、このCAFE規制、欧州で先行しているが、世界中の国々で類似規制が始まっており、それらの規制はこの欧州規制を先行事例として見ているので、似たような規制ラインに落ち着くことが予想される。すでに世界のルールはそうなっているということだ。
なので「燃費ばかり気にしてつまらなくなった」という発言は、「職場で女性のお尻を撫 (な)でるくらいコミュニケーションだ」と言っているようなものだ。個人の価値観がそこに留まっている間に、世界のルールは「そんなことは許されない」ということになっている。
例外なくグローバルカンパニーである自動車メーカーに、「セクハラなんてギスギスするからもっと緩くしてよ」といってみたところで「はいそうですね」となるわけがない。燃費の良いクルマが嫌なら、国際社会に訴えて温暖化防止の流れそのものを阻止するしかないが、そんな意見が国際社会の同意を得られるとは到底思えないのである。
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