かんぽ不正を「過剰なノルマ」で、片付けてはいけない理由スピン経済の歩き方(2/5 ページ)

» 2019年07月30日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

構造的な不正に変化

 というと、「どこの組織にも悪い人間はいる、かんぽ特有の話ではない!」とムキになる人たちがいるが、「郵便局」という地域社会で圧倒的な信頼のある肩書を用いるこれらのスキームは、他の保険会社ではそう簡単に真似のできるものではない。

 そこに加えて、なぜこれらの不正を「かんぽ特有」なのかというと、バブル崩壊後から2000年代にかけて、それまでの「個人犯罪」から、徐々に組織的、構造的な不正へと性格が変わっていくからだ。

 例えば、福島の2つの郵便局では、94年から95年にかけて職員たちが「実績を上げるため」に、個人に対して、15人以上で加入する「職域契約」をさせるという不正が発覚している。また、滋賀の郵便局では03年から04年にかけて、簡易保険の契約時に不可欠な健康状態などを聞き出す面接を行わないまま契約するという不正が80件あった。こちらも「営業成績を上げたかった」のが動機だ。

 このような不正は年を追うごとにスケールが大きくなっていく。06年に秋田県大館市、横手市の特定郵便局で310件の不正営業が発覚。それを受けて、周辺を調査したら、さらに17の郵便局、73人の職員が370件近くの不正契約を結んでいた。

 これら発覚した不正が氷山の一角であることは、今回の騒動からも容易に想像できよう。

 ポイントを整理しよう。郵便局でははるか昔から、一部による簡易保険の不正販売は存在していた。その多くは、小遣い稼ぎや詐欺など私腹を肥すためのものであったが、バブル崩壊後の「失われた20年」に突入し、簡易保険そのものの販売が厳しくなってくると徐々に、郵便局の営業成績維持のため、多くの職員が関わる組織的な「数字のかさ上げ」に利用されるようになったのだ。

 この歴史的経緯を見る限り、「ノルマが悪い」「民営化が悪い」と言うのはあまりに実態とかけ離れている。むしろ、構造として近いのは、神戸製鋼の検査データ不正だ。

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