「声認証」は安全なのか 世界で高まる“詐欺防止”への期待世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)

» 2019年08月22日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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95%の精度の技術を開発した日本企業も

 この声紋認証で世界をリードしているのは、米マサチューセッツ州に拠点を置くNuance Communications(ニュアンス)という企業だ。同社は「100%という認証技術は存在しない」と認めながらも、ほとんどの銀行が求める99%以上という精度をAIで実現しているという。現在同社は、すでに述べたHSBCだけでなく、ドイツテレコムやスペインのサンタンデール銀行、オーストラリア国税庁、ボーダフォン・トルコ、英企業トーク・トークなど数多くの企業に声紋認証を提供している。顧客数は世界で4億人を超えるともいわれ、クライアント企業を詐欺などから守っている。同社のサービスによって、クライアント企業は総額で年間20億ドルの顧客のカネを奪われずに済んでいるという。

 こうした声認証技術は、生体認証で定評のある日本の電機大手NECも開発に乗り出している。すでに、ディープラーニング(深層学習)を活用して、周囲に雑音があり、通信環境が芳しくない状況でも、95%の精度で個人認識ができるようになっている。今のところ、自然な会話での認証には5秒かかるが、それもどんどん短くなっていくことだろう。同社によれば、「特定のフレーズに限らない短い発声からでも個人の特徴を正確に抽出・識別することができる」という。

 筆者も最近では、スマホの文字入力で音声を使うことが増えた。最初は少し前に、米捜査当局出身の知人に勧められたことで使い始めたのだが、スマホで長い文章を打つ時や手がふさがっている時などにこの技術は重宝する。声の便利さはすでに認識しており、これからは文字入力も音声が主流になるのではないかと真剣に考えているくらいだ。

 今後、声がさまざまなシーンで使われることになるかもしれない。声による認証も、そう遠くない先に日本でも大きく注目されるのではないだろうか。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最新刊は『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。


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