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» 2019年08月22日 07時00分 公開

日本企業が欧米のアニメ・マンガ業界“支配”に挑む!? 相次ぐ買収劇に潜む「真の狙い」とはジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(5/5 ページ)

[数土直志,ITmedia]
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激動のエンタメ業界、「金で時間を買う」日本勢

 センタイは、近年急激に強まる業界各社の大資本化に懸念を募らせていた。巨大化するアニメ・マンガ産業に資金力で追い付かない。年商数兆円を誇るハリウッドメジャー、Netflix、Amazonの市場参入で加速する、独立系企業各社に共通する悩みだ。そこで日本企業を含めた外部資本を求めるようになった。

 しかし例えば、ファニメーションのようにどこか大きな企業の傘下になるのは躊躇(ちゅうちょ)する傾向がある。ある特定のグループ企業になることは、別の企業から反発を招くからだ。センタイは多くの取引先企業があるから、特定の企業の色がつくことでこれまでのビジネスが縮小する可能性があった。

 それはクールジャパン機構も同様だ。クールジャパン政策で何かとやり玉にあがることの多いクールジャパン機構だが、そもそも組織のミッションである「日本のクリエイティブ産業の振興」と「投資利益の確保」は矛盾する。企業のミッションは「公共性」なのか「利益」なのか。もちろん両方と言えるし、さらに国のお金も投入される以上「中立性」も求められる。

 業界に対して中立な立場にあるセンタイの企業カラーは、クールジャパン機構のミッションに合う。さらに日本の多数の企業から多様な作品のライセンスを取得し、市場に流通するセンタイはクリエイティブ産業振興という目的にも合致している。クールジャパン機構のセンタイへの出資という意表をついた取り組みは、双方が「どこの企業グループにも属さない」という点で互いに都合が良かった。

 M&Aの目的で「金で時間を買う」とよく言われる。ゼロから育てるリスクと時間を、買収によってカットすることだ。

 アニメだけでなく、今や世界のエンタメ業界は大激動の中にある。日本アニメはこれまでハイティーンから20代の青年層に強いと言われ、この分野で圧倒的なシェアを誇ってきた。しかし現在、この青年向けマーケットは各国のエンタメ企業が目をつける成長市場だ。青年層をターゲットにした作品は世界的に急増している。

 だからこそ日本は一歩も二歩も先を行かなければいけないが、残された時間はさほど多くない。時間を買わなければいけない理由がここにある。

 日本アニメやマンガの海外普及が進む一方で、その人気拡大の重要なツールとなる映像配信やデジタル書籍のプラットフォームは海外企業に大きく依存している。映像配信であればNetflix、Amazonプライムビデオ、マンガで言えばAmazon Kindleといった具合だ。放送や映画配給も海外に関しては外資依存が相変わらずだ。

 コンテツの流通システムが外資に押さえられているからこそ、商品や周辺サービスだけは日本が市場を取りにいくべき、という構造もある。コンテンツ流通の大元が外資に押さえられる一方で、その周辺産業においては、M&Aにより日本企業の影響力が強まるという、対称的で不思議な状況が進んでいる。

 海外市場では現地企業・外資系企業に押されがちと思われている日本だが、相次ぐM&Aはコンテンツビジネスがそれほどシンプルな構造でないことを示している。まだまだ日本のビジネスプレイヤーが海外市場で活躍する余地は大きい。昨今のM&A状況はそれを示しているともいえるだろう。

著者プロフィール

数土直志(すど ただし)

ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。アニメーションを中心に映像ビジネスに関する報道・研究を手掛ける。証券会社を経て2004 年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立。09年にはアニメビジネス情報の「アニメ! アニメ! ビズ」を立ち上げ編集長を務める。16年に「アニメ! アニメ!」を離れて独立。主な著書に『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命』 (星海社新書)。


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