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ハマーン・カーンの栄光と凋落に見る組織運営の要諦元日銀マン・鈴木卓実の「ガンダム経済学」(1/6 ページ)

» 2019年03月25日 07時00分 公開
[鈴木卓実ITmedia]

 御家再興、傾いた会社の再建など、いつの世も復活劇にはロマンがある。

 高貴な生まれの主人公が家を追われるなどして身を落とすも、艱難(かんなん)辛苦を乗り越えて再び返り咲く貴種流離譚は、古くから日本神話やギリシャ神話など洋の東西を問わず存在する。

 強者や運命への反抗や困難に立ち向かう姿そのものが、庶民の琴線に触れるシナリオなのかもしれない。ハッピーエンドは、恐らく必要ないのだろう。尼子家の再興に身命を賭した山中鹿之助や、九度山に流されるも、大坂の陣で活躍した真田幸村の逸話が残っている。

 現代でも、“リベンジ”で有名な小説・ドラマが人気を博している。ビジネスの分野なら、企業の「V字回復」を扱った記事などがよく注目を集める。シナリオと煽り口上の相乗効果もあろう。

 ガンダムの世界で言えば、ジオン・ダイクンの遺児にしてスペースノイドの自治独立を唱えたシャア・アズナブルはまさに代表的な「貴種」と言える。ただ、今回扱うのはシャアではなく、「Zガンダム」「ZZガンダム」に登場するハマーン・カーンだ。

photo ネオ・ジオンを率いるハマーン・カーン(『機動戦士ガンダムZZ』公式サイトより引用)

本稿では、ハマーンの「リベンジ劇」を材料に、経済、ひいては組織の運営について考察したい。

10代でネオ・ジオンを率いる

 ハマーンの父マハラジャ・カーンはジオン公国を治めるザビ家に縁のある高官である。平時であれば、ハマーンは令嬢としての生活を送ったのだろうが、一年戦争のジオンの敗北と父の急逝により、激動の生涯を歩むことになる。ジオンの再興を図ったハマーン・カーンによる第一次ネオ・ジオン紛争は、リベンジ劇という視点で捉えることができよう。

 ネオ・ジオン(以下、本稿ではハマーン・カーンが率いた組織を指す)は、火星と木星の間の小惑星帯(アステロイドベルト)にある資源衛星アクシズを拠点とした。アクシズは、地球から最も遠いスペースコロニー群・サイド3の管理下にあり、都市機能や工廠を備えていた。食料や生活用品だけではなく、軍需物資も生産できた。

 航行が順調でも、地球から数カ月かかる距離にあり、情報も隔絶されているため、地球連邦も軽々に軍を派遣できない場所にある。一年戦争におけるジオン敗残兵が落ち延びるには、かっこうのアジトと言えよう。

 まだ赤子であったジオンの姫ミネバ・ザビもアクシズに身を寄せ、当時、アクシズの司令官を務めていたマハラジャ・カーンの保護下に置かれる。そのマハラジャ・カーンの死去により、娘のハマーンはミネバを擁立し、若くして権力の座につく。

 10代でアクシズの行政と軍を統括したことを考えると、親の七光りとそしられることもない優秀な人材だったのだろう。ハマーン自らMS(モビルスーツ)を操って陣頭に立つ、パイロットとしての顔も持つ。脳波を利用した無線オールレンジ兵器「ファンネル」を使えるニュータイプでもある。

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