労働とその処遇をめぐる議論は、いつの時代も尽きることはない。平成最後の年を迎えた日本でも、外国人労働者の待遇や、4月から段階的に施行される「働き方改革関連法」への対応、賃金の伸び悩みなど話題に事欠かない。
労働者の評価や報酬、優秀な人材をどのような地位につけるべきかといったテーマは、人事と組織の経済学の関心事項の一つである。
これはガンダムの世界にも通ずる。人類が宇宙への移住を果たしたガンダムの世界では、地球連邦軍とジオン軍は、同じ軍隊という組織でありながら、パイロットの評価も昇進の早さもまるで違う。現代で言えば、同じ業種で人事制度の異なる会社が争っている姿に近い。
そこで今回は、地球連邦軍とジオン軍を題材に、宇宙世紀における人事と組織について考察する。
人事と組織に影響を与える一因に技術が挙げられる。同じ産業であっても、技術進歩により労働者の処遇が大きく変わる。現在進行中のメガバンクの人員削減はその一例で、労働から資本(IT)へと作業を担う主力が移行することで、一般的な労働者の必要人員が減り、資本を有効活用できる一部の労働者の評価が高まるという流れである。
ガンダム世界における地球連邦軍とジオン軍の軍事技術は、開戦当初こそMS(モビルスーツ)の開発・実用化に先んじたジオン軍が秀でていたが、地球連邦軍もガンダムの開発に成功し、量産型MS・ジムの配備を進めた。技術力ではほぼ拮抗(きっこう)しており、少なくとも、現代における米国と他の国々ほどの差はないと言えよう。
そんな地球連邦軍とジオン軍の人事・組織の違いは何か? それは両軍の設立目的や政治制度、兵力等に起因すると考えられる。
地球圏が地球連邦政府によって統治された世界において、連邦軍は地球連邦政府による支配と秩序維持のための軍であった。人類の統一軍が連邦政府に反抗的な勢力を討伐するという形である。
イメージとしては、第二次世界大戦後に連合国軍総司令部(GHQ)のマッカーサーらが志向していたと考えられる国連軍に近い。日本が固有の軍を持たなくても、対外的な秩序の維持については、国連軍が担えば問題はないという発想である(共産主義国の伸張でその理想はもろくも崩れ去ったが……)。
民主主義の軍隊は、議会による統制・シビリアンコントロール(文民統制)を前提とする。地球連邦軍の地球至上主義勢力であるティターンズと内部抗争をしていたエゥーゴは議会工作に腐心した。「機動戦士Zガンダム」(第37話 ダカールの日)では、クワトロ・バジーナがダカールの連邦議会において、自分がシャア・アズナブルであること、そして、ジオン・ズム・ダイクンの遺児であるという素性を明かす演説をした。
議会が承認した軍こそが正規軍であり、連邦政府の予算を使える。金喰い虫の軍隊にとっては、正統性や錦の御旗以上に資金は重要である。アナハイム・エレクトロニクスの幹部で、「無理難題を言う」出資者として有名なウォン・リーがいかに資金繰りに奔走しようとも、軍費を支え続けることは難しい。シャアに心情的な葛藤があったとしても、背に腹は代えられない以上、ダカールで演説する以外の選択肢はなかっただろう。
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