「赤い彗星」のシャアはなぜスピード出世できたのか?:元日銀マン・鈴木卓実の「ガンダム経済学」(2/7 ページ)
他方、ジオン軍は、後に「一年戦争」と呼ばれる独立戦争を仕掛けた側である。既存の秩序を維持するのではなく、連邦政府の支配を打破することを目的としていた。地球連邦軍に比べて寡兵であり、長期戦では不利なので、緒戦で大勝して、地球連邦政府と有利な条件で講和するという短期決戦を志向した。
地球連邦軍が「秩序維持・守勢の軍」とすれば、ジオン軍は「既存秩序の打破・攻勢の軍」という性格が強い。ミノフスキー粒子の干渉でレーダーが機能しない戦場では、MSによる急襲や一撃離脱戦術が有効になり、そうした戦術の成果はパイロット個人の技量に依るところが大きい。戦略的にも戦術的にも攻撃的で、優秀なパイロットを必要とした。MSも攻撃的な機体が開発された。
「機動戦士ガンダム0080 〜ポケットの中の戦争〜」に登場するケンプファーは、見た目も勇ましく、火力も機動力も高かったが、NT-1ガンダムアレックスの腕部内蔵ガトリングガンの掃射で、あっという間に破壊された。「装甲が紙レベル」、「ステータスの割り振りを間違えた」など、批判されることの多い機体ではあるが、ジオン軍の戦略・戦術と照らし合わせて考えると、機体コンセプトは正しかったと言えよう。
ガンダムNT-1のガトリングガンを浴びて破壊されるケンプファー=『機動戦士ガンダム0080』(第4話「川を渡って木立を抜けて」)
ちなみに、ケンプファーはドイツ語で闘士や戦士を意味するが、一部のオンライン辞書で意味を調べると、このMSが出てくるのはご愛敬である。
ジオン公国は公王こそデキン・ザビではあったが、実質は長子のギレン・ザビが総帥として権限を独占し、作戦立案までを担った。武断的な政治体制であり、議会が軍事費に関与する余地は少なかっただろう。
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