ガンダム世界の経済を、経済学や歴史などを用いて解釈し、想像の翼を広げることを試みる連載「ガンダム経済学」。宇宙世紀のインフレ、巨大企業アナハイム・エレクトロニクスに続く第3回は、セイラ・マスという個人に焦点を当てたい。
セイラ・マスの半生は波乱に満ちている。出生時の名前はアルテイシア・ソム・ダイクン。父であるジオン・ズム・ダイクンは、後に地球連邦との間で一年戦争を起こすサイド3の首相で、ジオニズムを提唱したカリスマ的指導者だったが、急逝。公式には病死とされたが、ザビ家による毒殺の可能性が高く、ダイクンの死を利用して、反地球連邦の機運を高めたザビ家は権勢を欲しいままにする。
ザビ家に遺児が害されることを恐れたダイクン派の手引きにより、セイラは兄であるキャスバル・レム・ダイクン(後のシャア・アズナブル)とともに、幼いながらにして命からがらサイド3を脱出。マス家の養子となり、医学を志したものの、滞在先のサイド7で一年戦争に巻き込まれ、以後、終戦までガンダムの母艦であるホワイトベースでオペレーターやパイロットとして従軍した。
その約10年後、「機動戦士ガンダムZZ」(第46話バイブレーション)では、特段の前振りもなく、元ホワイトベースの艦長であるブライト・ノアとの会話において、投資で活躍していることが明らかになる(もっとも、セイラ本人は、「女一人でできる投資なんてたかが知れているわ」と謙遜している)。
「機動戦士ガンダムZZ」に登場したセイラ・マス=第46話「バイブレーション」より
多くのガンダムマニアの間で、いまだに語り継がれているまさかの転身である。「医者設定はどこに行った?」、「人の命より金か……」、「(リアルでは)当時はバブルだったから仕方ない」など感想はさまざまであるが、それだけ、短いシーンにもかかわらず今でも忘れられないインパクトがあった。
国を追われた「姫」は哀しみを乗り越えて医学を志したが、戦争に巻き込まれて従軍した挙句、いつの間にか成金になっていたのである。
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