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ガンダムの「姫」、セイラ・マスはなぜ投資で成功できたのか?元日銀マン・鈴木卓実の「ガンダム経済学」(3/5 ページ)

» 2018年10月30日 06時30分 公開
[鈴木卓実ITmedia]

投資家に有利な資質があった

 話題を戻すと、可能性の高い元手資金として、マス家の遺産が考えられる。兄のキャスバルはマス家に養子に入った後、エドワウ・マスとして育ったが、死を偽装してシャア・アズナブルに入れ替わったため相続権はなく、マス家の財産はセイラが相続したのだろう。

 テアボロ・マスはアナハイム・エレクトロニクスとの商戦に敗れたとはいえ、執事やメイドがいる生活だったので、なお、相応の資産を有していたと考えられる。つまり、裸一貫のし上がったわけではなく、ある程度の資金があったと見るべきだろう。

 セイラの経歴や言動を観察すると、投資家に有利な資質を持っていたようだ。

 セイラは医者を志していたが、医学そのものよりは医療統計・確率論の勉強が投資の役に立った可能性が高い。確率・統計は投資理論のフレームワークを提供しているだけではなく、予測精度の向上に役立つ。

 予測力についての研究をまとめたフィリップ・E・テトロック&ダン・ガードナー著「超予測力」(早川書房、2016年、文庫版2018年)等によれば、予測のうまい人は、情報が追加されるたびに自分の予測(主観的確率)を調整していき、そのプロセスが条件付き確率に立脚したベイズ推定に似ているようだ。

 「科学的根拠に基づく医療(evidence-based medicine)」による病気の診断や治療法の特定等にも通じるところがあり、投資家になる以前に、予測の訓練を積んでいたことになる。

 また、予測には時間をいくらかけても精度が上がらない類の問題が存在する。そういった問題に固執することは止め、努力で勝率が上がりそうなところに集中できるかどうかという割り切りが重要になる。予測の分野では医学用語を流用して、トリアージと呼んでいる。トリアージの概念もセイラは医者を目指す過程で学んでいるはずだ。

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