日本企業が欧米のアニメ・マンガ業界“支配”に挑む!? 相次ぐ買収劇に潜む「真の狙い」とはジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(4/5 ページ)

» 2019年08月22日 07時00分 公開
[数土直志ITmedia]

ビジネスが「日本からの視点」に寄りがち

 実は先のクールジャパン機構も同じ失敗をしている。14年に出資したアニメコンソーシアムジャパンである。アニメコンソーシアムジャパンは、国内アニメ会社・出版社が連合して日本アニメを世界に配信する映像プラットフォームの運営を目指した。ゼロからプラットフォームを立ち上げたが、十分なユーザーを集めることが出来ずに大きな損失を出して事業を清算している。

 日本企業の直接進出がうまくいかない原因には、ビジネスが日本からの視点になりがちな点がある。現地のニーズを十分引き出せず、ユーザーとのコミュニケーション不足が効果的なマーケティングを阻む。そのため近年は、ユーザーとの関係を既に構築している現地企業のノウハウをそのまま手に入れようとしている。

 実際にこうした買収はどの程度、各日本企業の事業に貢献しているのだろうか。海外出資の成功例はあるのだろうか。バンダイナムコグループの場合、ブルーフィン買収後の20年3月期第1四半期の米国事業の売上高と利益は2桁の伸びとなっており、少なくとも買収は業績にネガティブではないようだ。KADOKAWAも北米のアニメ原作・コミカライズの電子書籍について「好調」としている。それでも実態はよく見えておらず、その真価が分かるのはもう少し先かもしれない。

 もちろん企業買収にも大きなリスクがある。一般的な海外M&Aが成功する確率は3分の1以下といった調査もあるほどだ。コンテンツ関連だと近年では、タカラトミーが11年に買収した米国玩具会社RC2が巨額の特別損失を迫られた。IMAGICA GROUPも15年に買収した米国映像ローカライズ会社SDIメディアの事業の立て直しに手間取っている。

 海外事業は買収前に見えなかったリスクが、買収後に明らかになるケースが少なくない。さらに人材流出で思ったように業績を残せないケースも多い。あるいは買収先とのコミュニケーションの不足が予想以上に経営悪化を招くこともある。

 センタイを経営するジョン・レッドフォードCEOは、以前はADヴィジョンという別のアニメ会社を運営していた。06年に日本の総合商社・双日と日本政策投資銀行は投資ファンドを通じてADヴィジョンに出資したが、00年代後半の北米アニメ市場の不況を受け、09年にADヴィジョンは事業停止している。この結末は日米双方にとって後味の良いものではなかった。ビジネス環境の悪化もあったが、意思相通が欠けていたことも理由にあっただろう。

 ではなぜクールジャパン機構はあらためてセンタイへの出資に取り組んだのだろうか。そしてセンタイは、クールジャパン機構を受け入れたのか。

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