村上世彰が「金融教育」に取り組む狙い村上世彰のN高特別授業【前編】(1/4 ページ)

» 2019年10月22日 08時05分 公開
[河嶌太郎ITmedia]
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 角川ドワンゴ学園が運営する「N高等学校」(N高)。プログラミングや文芸小説創作、DTM・ボーカロイド、デザイン制作などといった個性を伸ばす教育に定評があるが、7月より「投資部」を設立し、金融教育にも力を注いでいる。

 特別顧問は、旧「村上ファンド」代表で、投資家の村上世彰氏が務める。村上氏による初の授業が7月12日、N高代々木キャンパス(東京都渋谷区)で開かれた。

 生徒は、通学・インターネットの双方合わせて50人が受講。270人の応募のうち、書類選考の末、5倍以上の倍率をくぐり抜けた精鋭達だ。この生徒達一人一人が、村上氏が運営する「村上財団」より20万円を給付され、投資の勉強に充てる。

 なぜ金融教育に注目が集まっているのか。最近では会社の研修の一環として「金融教育」を導入する企業も増えている。社員一人ひとりが、お金の知識を付け、家計を安定させ、仕事に集中できる環境を作ることが経営課題にもなっている。また、「お金」を直接やりとりしないキャッシュレス化も進んでいる。こうした仕組みと接する人々は低年齢化しつつある。「お金」の役割や価値が次第に見えにくくなるなか、学校教育の中でも子どもたちに「お金」の大切さを教えていく必要性が指摘されている。

 そんな中、村上氏は自ら金融教育にかかわり、お金に振り回されない人生を送るために、若いうちにお金と真剣に向き合う機会を子どもたちに持ってもらいたいという想いから、N高投資部での講義に取り組んでいる。村上氏が高校生に金融教育をする背景、若い時からお金と向き合う意義に迫るとともに授業の内容もお届けする(編注:以下、生徒の質問や発言を――としています。)。

phot 村上世彰(むらかみ・よしあき)投資家。1959年、大阪府生まれ。83年、通産省(現・経済産業省)に入省。国家公務員としてコーポレート・ガバナンスの普及に従事する。独立後、99年から2006年まで投資ファンドを運営。「物言う株主」としても注目を集めた。現在は、シンガポール在住の投資家として活動する。著書『生涯投資家』(文藝春秋)、『いま君に伝えたいお金の話』(幻冬舎)など。N高投資部の特別顧問に就任。60歳

投資をすることによって会社や社会の動きを見極める

 今まで投資をしたことがある人はどのくらいいますか。これから皆さんには約1年弱、村上財団から給付する資金で投資をしてもらいます。途中で2回、投資額が上がる「レベルアップ」のチャンスがあります。レベルアップできるかどうかは皆さんがどんなふうに投資をして、どのように学ぶかにかかっています。

 ただし、皆さんの投資先について僕は一切口を出しません。皆が自分で決めて自分で売るべきタイミングを決める。もしくは最後まで持っていても構いません。個別の銘柄への質問には答えられませんし、どの銘柄を買ったらいいかという推薦も一切しません。皆さんが自分で考えて、好きに投資をしてみてほしい。まず、手元資金の中でどこに投資をするか、真剣に考えてみることをお願いしたいと思います。

 今日の授業は、質問に答える形で進めたいと思います。ただし、繰り返しますが、個別の銘柄についての質問には答えられません。

――会社の情報をもっと詳しく知るときは、どういうところで情報を見つければいいですか。

 僕が見やすいと思うのは、証券会社のWebサイトやアプリで、銘柄を検索して基本的なデータや開示情報を見る方法。こういうサイトでは、例えば四季報などのデータベースと連携をしていて、基本的な情報や、それぞれの会社が行っている適時開示と呼ばれる資料も見ることができます。適時開示というのは、こういう決算でしたよとか、こういう状況でこういう会社と提携しましたよとか、株主の投資判断に重要な情報を企業がタイムリーに開示している情報のことです。

 例えば環境の分野や、デッサンをやっている会社の株を買いたいとかオリンピック関連のものを買いたいと思ったら、「どんな銘柄があるんだろう」ってまず調べるよね。いくつかそういう銘柄を見つけたら、次にその銘柄が今どうなっているのかを、証券会社のデータベースで見ることができます。その投資先候補の会社のWebサイトにも飛べるようになっていて、そこでは投資家向けのページで、中期経営計画や財務情報を見ることができる。中には決算説明会の動画まで公開しているところもあります。そういったところで必要な情報は全部見ることができるので、資料や情報を読み込んで、自分の中で考えてみてください。

 僕はこの授業で、皆さんが投資をすることによって会社や社会の動きを見極め、場合によってはさらに一歩進んで、損をすることやその恐怖心、逆に利益を得る喜びを味わってもらえればいいと考えています。ですので、最初はあまりこだわらずにできる範囲で調べて、自分がこうだと思ったら、まずはやってみていただきたい。

 皆さんの手元には村上財団からの投資資金20万円があります。証券口座の準備ができ次第、できるだけ早く、実際に投資をしてみてください。僕がさきほど言った証券会社のサイトやアプリ、投資先候補のWebサイトなどの情報にアクセスをして、投資銘柄を選んでください。そうやって実際に投資を始めてみると、自分が一番欲しい情報は何か、どこにそういった情報があるのか、といったことがだんだん分かってくるはずです。

phot 実際にアプリを起動して使い方を教える村上氏
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