もちろん、自分から修業したいという人の意欲は、否定しない。何年も下積みの修業をして、たしかなスキルを身につけてから、世に出ようという誠意は悪いものではないだろう。もともと不器用だから、うまくなるのに時間がかかるので長く修業したい、という気持ちも分かる。自信創出のために必要な時間だというなら、好きなように修業したらいい。
ただ、スキル獲得のための絶対条件ではない。修業すれば人間力が身につく、などと言われるが……そんなわけないだろう。厳しい修行を積んだくせに、頑固で偏屈で、おまけに無愛想な職人がどれだけいることか。
そもそも人間力なんていう、抽象的すぎる基準を盾に、若者から大切な時間を奪うなんて、どれだけ傲慢なのだ。修業は無意味という主張よりも、僕が問いたいのは、本質の部分だ。君が何らかのスキルを得たいと言うとき、僕は最初に訊(たず)ねるだろう。
「目的は、何なのですか?」
「おいしい料理で人を幸せにしたい」というのが目的なら、注力すべきは修業期間ではないはず。SNSや食べ歩きを駆使した情報収集や、流行っている店のつくり、料理人のパフォーマンスを学ぶことの方が大事だ。目的が「長く修業したい」のだったら、どうぞ好きなだけ、下積みを延々と続けてください。目的がお客さんに向いているのなら、修業は真っ先に「捨てて」いい対象だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング