―― 先生から見て、日本の経営者の睡眠の質はいかがですか?
白川 よくないですよ。お酒の飲みすぎです。お付き合いが多いですからね。
―― ただ、経営者が睡眠時間を削って忙しそうに働いていると、勢いがありそうな印象を受けますよね。そういった経営者に憧れてショートスリーパーを目指す人もいますし、睡眠時間を短くするセミナーもあると聞きます。
白川 そういった類のセミナーは「うそ」です。ショートスリーパーには睡眠に関連した遺伝子の突然変異がみられるとの報告があり、後天的に訓練でなれるものではありません。ショートスリーパーの多くは、血族の中にショートスリーパーがいることが多いようです。
ただ、ショートスリーパーの存在自体がまれであり、私は会ったことすらありませんからね。本来人間が必要な睡眠時間は7時間、せめて6時間です。7時間きちんと眠り、自分の脳がどう働いているかを考えてほしいです。
―― 経営者が睡眠負債の解決に取り組んでいくためには、まず何から始めればいいでしょうか。
白川 一番重要なのは、経営者や管理者が睡眠について知ることです。日本の経営者は科学的知識がない人がほとんどでしょう。
―― 最近は睡眠関連の書籍もたくさん出ていますが……
白川 それは医学的に正しい本ですか? 日本人は学校で睡眠学を習っていませんから。まずは睡眠改善学の教科書などで、系統立った知識を学ぶ必要があります。また、一定の規模の企業には産業医がついていますが、産業医の睡眠についての知識が浅いのも問題です。
―― なぜですか?
白川 これまでの産業医の多くは、胃潰瘍などを診る消化器科や、高血圧などを診る循環器科の出身だからです。産業医学専門や精神科、心療内科であれば別ですが、そうでない医師が大多数です。医者でも睡眠教育を受けていない人が多く、特にお年を召した産業医は睡眠分野は案外知らないのです。不眠症の診断でも睡眠薬を出して終わる場合が少なくありません。
―― 産業医が睡眠について知識が浅いのは意外でした。他に睡眠負債の解決方法はありますか。
白川 もう1つは経営者自身の睡眠がいいかどうか知ることです。睡眠が悪ければ経営判断をミスします。だから社員からでなく、自分たちから変える必要があります。
―― 企業としても睡眠の重要性は分かってきていると思います。ただ、OECDや厚生労働省の調査では、年々日本人の睡眠時間が増えるどころか減ってきている状況です。
白川 企業もどう改善すればいいのか分からないのでしょう。従って、企業内の勤務システムをどう変えるか、また、どうやってうまく社員に睡眠を取らせるよう社内で指導するかが重要です。そのためにも、まずは経営者自身がきちんと睡眠を取る必要があります。そして、1日だけでなく、日々の睡眠履歴を取ることが大切です。1日の睡眠不足ではなく、積み重なった睡眠負債が問題なのですから。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング