―― 企業の中には、社内に睡眠改善プログラムを導入したり、仮眠スペースを設けたりと、積極的に社員に睡眠を取らせようとする動きもあります。
白川 お昼寝では根本的な睡眠改善にはつながりません。それよりも、夜間の睡眠をどう社員にコントロールさせるかが重要になってきます。例えば、某社は早朝出社を推奨してやっていますが、睡眠の観点で言えば間違いです。
―― 早く出社したぶん早く帰って余暇を充実させれば、早く眠れそうですが……
白川 あれはおそらく、睡眠時間が短くなっているはずです。結局、場合によっては、持ち帰りで仕事をしていますからね。だから仕事のシステムをどう集約していくかが重要です。もう1つ、日本は通勤時間が長い点も問題です。
―― 確かに、通勤時間が長いほど自宅に帰るのが遅くなってしまいますね。
白川 帰宅時間が遅くなり、寝る直前に夕食を食べていたら良質な睡眠は取れません。企業は睡眠時間を確保できないような状態を作っていないか、見直す必要があります。長時間労働が生産効率を上げているわけではありません。昔のように「安かろう」で大量生産をするビジネスモデルであれば長時間労働でもよかったのですが、今は質が高く消費者のニーズに合った商品を提供する必要があります。
そのためには頭を使う必要があります。頭を使うには、リフレッシュが必要です。勤務間インターバルも含めて、企業は勤務システム全体を変えていく必要があります。
―― 勤務間インターバルとは、仕事を終えて次の仕事が始まるまでに、一定時間以上の休息時間を設けることですね。
白川 ヨーロッパは11時間以上と法令で決まっており、違反した場合の罰則規定も厳しいです。一方、日本では罰則規定はなく、9時間以上の間隔があれば、厚生労働省の助成金対象になります。しかし、通勤時間が1時間あり、食事の時間なども考えたら、何時間眠れるの? という話です。
―― 勤務間インターバルが9時間の場合、7時間寝たいと考えたら残り2時間しかないですね。
白川 勤務間インターバル制度を作った官僚たち自身が長時間労働していて、「5時間眠れればいい」という発想ですからね。どちらにしろ、企業として効率化を考えるなら、睡眠は重要な要素になります。
―― ただ、難しいなと感じるのが、「鶏が先か、卵が先か」の問題で、睡眠を改善しようにも、睡眠負債がたまって頭が働かないから業務を効率化できない、業務を効率化できないから睡眠が改善できない、のようなジレンマが起きませんか。
白川 だからこそ、まず睡眠を取らせてみることが大切です。まず1週間、睡眠を取れるように1回やってみて、社員がどう変わるかみてごらんなさい。トップダウンで「残業なし! 絶対帰れ!」と伝えてください。
仕事には波があるので、1カ月に1週間程度であれば、時間を取れる週があるはずです。「この週はこの部署」のように部署ごとにやらせて、その1週間で睡眠によってどう変わるか、本人にチェックさせるのです。仕事の効率がどうなったか、ミスが減ったか、○×でチェックさせて集計してみると、本人も自覚できます。これだけで違ってきますよ。
―― 強制的に帰らせれば、いやでも仕事の効率も上げなければいけなくなりますね。
白川 日本企業は無駄なことがすごく多いです。無駄な会議や書類をなくしましょう。例えば、会議を10分しかやらないとか、書類を紙に出さないとか。無駄なメールも多すぎます。もう1つは業務の共有化です。個人が全部仕事を請け負って、グループで共有していない状況では、その人が休めません。働き方改革はそのあたりから始めて、同時に睡眠時間も確保していくことです。
―― 全て自力で改善するのは大変なので、企業の睡眠コンサルを担う組織があればいいですね。
白川 ドイツやアメリカにはスリープマネジメントをする会社が数多くあります。企業お抱えで、社員の睡眠を全て記録したり、個別相談に乗ったり、睡眠障害があったら関連病院に連れて行ったりできるようです。しかし、日本では保険制度がある以上、医療行為に抵触してしまうので一企業ができません。かといって、産業医は睡眠のマネジメントができない状況です。
―― まずは1週間、毎日7時間寝て日々の状態をセルフチェックすることから始めてみることが大切ですね。
白川 経営者も社員も、睡眠によって自分がどう変わっていくか、まず1週間実験してみてはいかがでしょうか。最初から完璧に変えようとすると大変ですから。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PRアクセスランキング