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» 2019年11月08日 08時00分 公開

下請け構造、給与に根深い問題:「台風19号でもトラックの中止連絡無かった」――走り続けた零細物流が陥る“負の業界構造”とは (5/5)

[橋本愛喜,ITmedia]
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効率追求の結果「トラックが倉庫代わりに」

 そもそも、トラックはどうして台風の中を走らねばならないのか。

 その大きな理由として挙げられるのが、配送される商品のメーカーがよく導入している「ジャストインタイム方式」という生産方式だ。

 トヨタ自動車によって開発されたこの方式は、「必要なもの」を「必要なとき」に「必要な量」だけ供給するという考え方で、製造現場だけでなく、今や「無駄を省く」「効率を上げる」を徹底する日本の産業界において、多くの場面で幅広く浸透している。

 こうして無駄な在庫品を現場で持たず、走っているトラックをいわば「倉庫代わり」にする荷主や、その日に入荷・加工し、その日のうちに出荷するというタイトなスケジュールを持つ倉庫の都合により、結果的にどうしても「指定日」「指定時間」にトラックが必要となるわけだ。

 何より、物流にはいわずもがな、災害時こそ必要となるインフラ的要素がある。

 今回筆者の取材に答えてくれたドライバーにも、台風の中、ガソリンや飲食料品など「無いと困る生活必需品」を運んでいた人が複数いた。災害時ともなれば、普段以上にその必要性が高まることは間違いない。

 しかし、突発的に発生する地震と違い、台風はある程度進路を予測し、事前準備ができる災害だ。

 わざわざ雨風吹き荒れる中で多くのトラックが走らねばならない環境に鑑みると、物流業界におけるドライバーへの安全確保やコンプライアンス意識には、まだまだ改善の余地があると言わざるを得ない。

 効率ばかりを意識する荷主と、需要があれば走らざるを得ない中小零細運輸のトラック。そして、危険な仕事でも走れることに「感謝」してしまうことすらある、ドライバーの給与形態。台風時の取材から見えてきたのは、「働き方改革」による大手のコンプライアンスの厳格化と、荷主都合の影響を直に受け、労働環境が過酷化する中小零細運送業者のトラックドライバー、という皮肉な構造だった。

 今回、前出のように小売業界が休業したのは、その商品を運ぶトラックドライバーの身を守るという意味でも、大変意味のあることだったといえる。

 数十年に1度という大きな災害が頻発している昨今の日本列島。身を危険にさらしてでも仕事をしなければ生活が成り立たない人たちにとっては、「働き方」も「改革」もない。いつか中小零細の運送企業で、「台風時はトラックを止める」と一斉判断できる日はくるのだろうか。

著者プロフィール

橋本愛喜(はしもと あいき)

大阪府出身。大学卒業後、金型関連工場の2代目として職人育成や品質管理などに従事。その傍ら、非常勤の日本語教師として60カ国4000人の留学生や駐在員と交流を持つ。米国・ニューヨークに拠点を移し、某テレビ局内で報道の現場に身を置きながら、マイノリティーにフィーチャーしたドキュメンタリー記事の執筆を開始。現在は日米韓を行き来し、国際文化差異から中小零細企業の労働問題、IT関連記事まで幅広く執筆中。


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