京浜急行線下りの快速特急電車と大型トラックが衝突した事故が起きたのは9月5日。横浜市神奈川区の「神奈川新町〜仲木戸」間の踏切だった。
同日午前4時ごろ、千葉県香取市の運送会社を出発した13トントラックは、横浜市神奈川区にある青果市場で荷を積み、予定通り千葉県成田市へ向けて出発した。
ところがトラックは青果市場のある出田町ふ頭を出た先で、会社から教えられた正規のルートから外れると、最終的に京急の線路と並行する小道に進入。踏切を右折しようとしたところ立ち往生し、午前11時40分ごろ京急下りの快速電車と衝突した。
ドライバー本人が死亡したことで、どうして過去3回使用した正規のルートを外れたのか、どうして小道から抜けるのに左折から右折に切り替えたのかなどは、もはや想像の範疇(はんちゅう)を超えない。
元トラックドライバーの筆者自身も事故後、現場を幾度となく走り、同じ時間の道路状況を観察したりドライバーの心理を探ったりしたが、いくつもあった事故回避のポイントに立てば立つほど「どうして」という悔しさが込みあげてくる。
そんな思いをより深くさせるのが、彼の年齢だった。67歳。トラックドライバーとして20年ほど働いた前の運送会社を退職した後、世間では「定年」と言われる歳を過ぎてもなお、18年10月に事故当時の会社へ入社。たった1度ルートを案内されただけで、1人現場に出される現状から、業界の抱える深刻な人手不足が垣間見えるのだ。
日本の貨物輸送の9割以上を担うトラックドライバー。「国の血液」とも称される彼らに、今何が起きているのか。その現状と改善策をひもといていきたい。
昨今、人手不足は日本経済全体が直面する大きな社会問題とされているが、その中でも自動車運転業務者の不足はとりわけ顕著だ。7月の全職業(常用)の有効求人倍率1.41倍に対し、自動車運転業の有効求人倍率は3.04倍。2倍以上も高い。
そんなトラックドライバー業界で人手不足の結果起きているのが、極端な高齢化だ。全日本トラック協会が公表している「日本のトラック輸送産業 現状と課題2018」によると、17年時点で50歳以上の割合は約40%にも及ぶ。
昨今、国内で高齢者ドライバーによる事故が発生するたびに免許返納が激しく議論される一方で、運送業界においては、高齢者ドライバーやその予備軍とされる60代や70代のトラックドライバーも全く珍しくない。むしろ定年後のトラックドライバーは免許取得済み、かつ多くの経験を持っていることなどから「即戦力」として優遇されているのが現状だ。
逆に40歳未満の若い就業者は全体の約28%と少ない。国土交通省が18年に発表した「物流を取り巻く現状について」には、29歳以下の若年層が全体の10%にも満たないという統計結果もあり、このままいけば10年後に今以上のドライバー不足に陥るのは必至だ。世間の少子高齢化でEC(電子商取引)の普及がますます広がる反面、物流はより一層追い付かなくなるだろう。
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