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京急踏切事故で垣間見えたトラックドライバー業界の「構造的な闇」とは進む高齢化、超過酷な労働環境(3/4 ページ)

» 2019年09月25日 06時00分 公開
[橋本愛喜ITmedia]

規制緩和がもたらした「過当競争の悪夢」

 そんな人手不足につながる過酷な労働環境、低賃金に陥ったそもそもの根源として、多くのトラックドライバーや運送企業経営者が挙げる存在がある。1990年に制定された「物流二法」だ。

 「貨物自動車運送事業法」と「貨物運送取扱事業法(後の「貨物利用運送事業法」)」を指すこの法は、物流業界の新規参入を促すため、従来の免許制を許可制にしたり、最低保有車両台数を下げたりするなどいった規制緩和を行い、活性化を図ったものだ。

 施行後、国の狙い通り価格競争やサービスの多様化につながるきっかけにはなったが、物流の現場では行き過ぎた下請け・孫請けに続くダンピングが横行するように。過当競争による「荷主第一主義」という力関係が生じる。

 これにより末端企業は、赤字と分かっていながらも、付き合いや次の仕事につなげるために仕方なく仕事を受けたり、ドライバーによる荷物の積み降ろしや長時間の荷待ちなどといった、いわゆる「ついで仕事」が常態化したりしていった。中には、荷主から過積載などの違法行為を強要されるといった弊害までもが起きる結果となったのである。

老化で顕著な「判断スピードの低下」

 では、こうした過酷な労働環境が引き起こしたトラックドライバーの高齢化は、現場の当事者たちにどのような弊害を起こし得るのか。

 今回、現役ドライバーに「老化を感じること」を問うたところ、「体にたまった疲労が抜けなくなった」「荷降ろしに時間がかかるようになった」という体力面の症状のほか、「地図が読めなくなった」「判断力が鈍るようになった」など、思考能力に関わる症状を訴える人も多くいた。

 特に「判断スピードの低下」は、昨今、75歳以上のドライバーが免許更新の際に課される「認知機能検査」でもなかなか判断しづらい。そんな中、高齢ドライバーが走行中に標識を発見し、その意味を脳で判断して行動に移すまでに時間がかかるようになれば、危険を回避しようとしても手遅れになる。

 実際、今回の事故現場にも小道に入る手前の道路に大きな標識は出ていたが、設置場所は回避できそうな側道よりも奥にあった。1枚の標識に載っている情報が多く複雑なこともあり、判断が一瞬遅れた可能性がある。こうして危険回避の機会を失えば、たとえ認知症のドライバーでなくとも、誰しも今回のような小道に入ってしまうことは十分考えられるのだ。

photo 事故現場付近の小道に入る手前に出ていた標識(横浜市、筆者撮影)
photo 標識の右側には側道がある。標識がもっと手前にあれば、この側道に入ることで事故回避のチャンスが増えていたのかもしれない (横浜市、筆者撮影。画像は一部ぼかしています)

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