「売る人」がいないJ-REIT 好循環の中、リスクはどこに?(3/4 ページ)

» 2019年11月11日 07時04分 公開
[斎藤健二ITmedia]

金利上昇リスクは軽微も、イールドハンターの動向しだい

 もう一つのリスク、金利上昇についてはどうか。REITは、投資家から集めた資金に加え不動産を担保に銀行から資金を借り入れ、2倍程度のレバレッジをかけて運用する。現在の金利は低く、借り入れしやすい状況だが、今後、金利上昇局面ではどうか。

 J-REIT各社は、借り入れ債務の期間を伸ばすこと、そして返済期限の分散を、リーマンショック後ずっとやってきていると秋山氏。SMBC日興証券の資料によると、この10年で固定金利比率は90%近くまで上がっており、金利上昇局面でも影響はなだらかなになる。「リーマンのとき痛い目にあったのが教訓になっている。多少の影響はあるが、金利上昇があっても、影響をかなり軽減する方向でやっている」

 一方で、金利上昇は別の影響ももたらす。J-REITを買っている中心は、少しでも高い利回りを求めるイールドハンターだが、長期金利が上昇した場合、比較してREIT以外の商品に旨味が出てくるからだ。

 「J-REITの買い手はイールドハンターが中心なので、政策金利が引き締め(金利上昇)に向かうと、大きく世界が変わってくる。ただし、長い目で見れば金利上昇もあるが、いまの状況では日本も緩和から抜けられない」

J-REITの買い手、日銀

 イールドハンター以外に気になるのが日銀の動向だ。日銀は2%物価上昇目標実現のため、年間約900億円の枠を設けてJ-REITを買い入れている。しかし、これはJ-REITの価格上昇を後押しし、他の投資家の呼び水となることを狙ったものだ。

 「年間900億買うといって、全然そんなに買っていない。実際には、日銀も枠はとってあるが、消化しなくてはいけないほどマーケットは悪くない」

 一方で、日銀金融機構が公表した金融システムレポートでは、不動産業向け貸し出しの対GDP比が14%近くに達し、90年以来初めて「赤」。加熱していることを示した。バブル期の再来か? と懸念されるところだが、当時とはプレーヤーが変わっていると秋山氏は話す。

 「バブルのころは短期売買、いまは年金基金など長い目で投資できる人たちが買っている。投資家の求める期間が変わってきている」

日銀金融機構が公表した金融システムレポート内のヒートマップ。直近では「不動産業向け貸し出しの対GDP比率」が、唯一、加熱を示す「赤」となっている。

 対象企業の枠組みも当時と変わった。バブル期は、商業施設や物流施設、ホテルなどは事業主体が借り入れを行い開発していたが、現在は不動産開発部分を不動産事業者が行うなど、水平分業が進んでいる。データセンターなども、通信事業者が行えば不動産融資ではないが、不動産業者が融資を受けて開発すれば不動産業に分類される。こうしたことから、不動産業向け貸し出しの比率が増加している。

 逆に注視すべきは日銀の出口戦略だ。「日銀は、2000年代に銀行の持ち合い株式を買って、10年くらいかけて売り切っている。出口で問題があるとしたら、日銀は損は出せないということ。ただし、長く持つというメッセージを発信したうえで、長いレンジで売却していくなら、マーケットがそれを恐れることはない」

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.