その様子を見た指導担当の先輩は、その新人スタッフに対しては、レクチャー中心のスタイルから、実践を通じてフォローしていくやり方に指導方法を変えていったのです。彼にはそのアプローチがぴたりとはまり、その後どんどん成長していきました。
一方、その指導担当者は、極度に心配性な私に対しては、その後もしっかりとレクチャーをしてから、最も簡単な業務である料金収納のロールプレイングを実施してくれました。不安を取り除き、ロールプレイングで自信を持たせてから店頭に出してくれたのです。
おかげでうまく接客でき、私は小さな成功体験を積むことができました。小さな成功は私の自信となり、その後、いろいろな業務に積極的にトライしていけるようになりました。私はこの対応に大変感謝しています。「とにかく接客してみろ!」と店頭に出されていたら、かなりパニックになっていたと思います。この一件で私は、新人に指導スタイルを選択させればスピーディーな成長につながると確信しました。
育成アプローチをまとめると、次のようになります。
育成パターンA実践アプローチ
育成パターンB講義アプローチ
育成パターンAのアグレッシブな新人であれば、営業の基本的な流れとポイントだけ簡潔に説明し、まずお客さまに訪問してみようという流れになります。多少の失敗はあれども、同行営業を通じて、都度フォローしていきます。
一方で、育成パターンBの石橋をたたいて渡る新人には、まずは営業とは何なのか、営業プロセスの全体像と各プロセス毎に注意点を教えます。そして、簡単なロールプレイングを通じて自身をつけさせ、お客さまの訪問を促します。
このように指導者は、初期段階においては、新人本人に主体的に育成パターンを選ばせ、スムーズに業務を覚えてもらうことがとても大切です。ただし、そのスタイルに慣れてきたら、徐々に新人好みの学習アプローチとは逆のアプローチを試していく必要もあります。
入社初期段階における新人好みの学習スタイルの採用は、あくまで業務習得に関してのつまづきを極力少なくし、職場環境にソフトランディングさせ、育成効率の低下を防ぐことが目的です。
一方で、逆のアプローチに慣れることは、新人がいろいろなタイプの指導者の教えを生かしやすくなり、結果として、成長スピードを速めることにつながります。また、本人の考えの幅も広がり、会社としての行動指針にも合わせやすくなります。
このように、最終的には、講義からでも実践からでも、どちらからでも仕事を覚えられるように新人を育成していきましょう。
「実践中心と講義中心、どっちがやる気が出るかな?」
「好みの学習スタイルの逆を試すけど、なぜか分かる?」
人事系コンサルティング会社を経験後、2006年ソフトバンク(旧ボーダフォン)入社。ソフトバンクユニバーシティの立ち上げ参画し、研修の内製化をリードする。
日本HRチャレンジ大賞人材育成部門優秀賞、ソフトバンクアワードの受賞をはじめ、アジア初で米国教育機関よりPike’s Peak Awardを受賞。その他、千人規模の新人研修やエルダー(OJT、メンター)教育にも携わり、新人、若手の早期育成にも貢献する。
2015年に講師ビジョン株式会社創業。社内講師の育成トレーニング、OJTトレーナー研修、新人研修などを提供する。近著に『10秒で新人を伸ばす質問術』(東洋経済新報社)がある。
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