もし中国政府が個人情報を知りたいと思うのだったら、中国で言うならばBAT、つまりバイドゥ、アリババそしてテンセントに「情報を渡せ」と言えばいいだけだ。実は実際に、中国政府はアリババやテンセントに「個人情報を中国政府に渡せ」と要求している。
彼らは国家AI戦略のプラットフォーム(BATIS)として指名されているだけでなく「社会信用システム」を構築するための企業としても中国政府から指名を受けている(ちなみにファーウェイは全国63社ある「社会信用システム」構築のための政府御用達企業の中にも入っておらず、逆に社会信用システムにより監視・評定される側である)。
従ってアリババやテンセントは中国政府の要求に応じなければならない。だというのに中国政府の要求を全面的には承諾しなかったために、アリババの創始者・馬雲はトップの座からしりぞくこととなった。テンセントの創始者・馬化騰は「騰訊(※簡体字)征信」という子会社の法人代表を辞任している。
この信用調査は国が管理すべきだというのが中国政府の意図で、そもそも馬化騰個人が管理するのは不適切ということから辞任したものと判断される。この辞任が続いたのは2019年9月のことである。このように中国政府は実際上、個人情報の提供をBATに要求しているのである。良し悪しは別として、それなら、まだ分かる。
中国政府の目的は全国に張り巡らしている監視カメラをも通して、「監視機能」を高めようということだ。第一章の冒頭のリード部分でも書いたように、習近平が怖いのは「人民の声」であって、何としても「中国共産党による一党支配体制を維持したい」。だから反政府分子が1人でもいたら、一刻も早い段階でその芽をつみ取りたいのである。
もしアメリカの個人情報を知りたいというのであれば、なんならGAFAの中のアップルとフェイスブックは習近平のお膝元の清華大学経済管理学院顧問委員会の委員なのだから、アップルやフェイスブックと結託すればいいだろう。それなのになぜデータ(ダンボール箱の中身)を知らないファーウェイに焦点を当てて集中攻撃しなければならないかと言えば、偏に次節で述べるように「ファーウェイが優秀でアメリカを乗り越えているから倒さなければならない」という現実があるからなのである。
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