実際上、データをやり取りするときには、データはカプセル化(ダンボールに梱包)されて「暗号化」して送る。送る時に「今からデータを発信しますよ」という通知や、「はい、分かりました。データを送ってくれたら運びますよ」という回答、「今送りました」という通知、「はい、受け取りましたので運びます」……などなどのやり取りがあって、またいくつもの段階におけるカプセル化(包装)をするので、数段階カプセル化されており、そのカプセルを剥がして中のデータを取り出すには数段階の「剥がし作業」を経なければならない。
これを「マトリョーシカ人形」に例えるなら、マトリョーシカは何重かになっていて、マトリョーシカを開けても開けても、データが入っている一番小さなお人形さんにはたどり着かないのである。
それでも首をかしげるなら、もっと単純に「一本の鉛筆」にたとえてみよう。ここに一本の鉛筆があったとしよう。徳川時代に日本に入り、明治時代などから貴重な筆記用具として大事にされてきた、種も仕掛けもない、何の変哲もない、ごくごくありふれた鉛筆だ。
その鉛筆自身は情報を持っていない。
しかし鉛筆が紙に文字を書いたり、絵や地図を描いたりすると「情報」を持ち得る。それが非常に貴重な内容である場合もあれば、極秘情報である場合だってあるだろう。
このように、鉛筆自身は情報を持ってないが、それが書いたものは情報を持ち得ることから考えても、ファーウェイは、まさにこの鉛筆(情報を運ぶ道具)に相当するので、道具自身は情報を持ちえない。これと同じ道理である。
この関係を理解しておきさえすれば、「ファーウェイが情報を抜き取っているか否かの論理的検証も(基本的には)できる」わけで、そのために国防報告書の分析に多くの文字数を使うことをご理解いただきたい。
この国防報告書が出た背景にはトランプ大統領のある懸念があった。
実は2018年3月12日に、トランプが「大統領令」を出して、シンガポールとアメリカに拠点を置く通信用半導体大手ブロードコムがクァルコムを買収することを禁止した。短期的志向の強いブロードコムに敵対的買収をされれば、5Gへの投資を拡大しているファーウェイが影響力を発揮し、技術がファーウェイに流れる安全保障上のリスクを警戒したからだ。
アメリカは少ない基地局で多数の端末接続を可能にするため、1970年代から米軍が軍事関連の補助金などを使って先端技術を開発し、それを民間転用してライセンス収入を稼いできた経緯がある。クァルコムはその線上で成長してきた側面もあるため、トランプとしては何としてもブロードコムによるクァルコム買収を禁止したかったのである。
このときアメリカの神経は「ファーウェイ・リスク」に集中していた。その結果、その「リスク」がDoD(米国防総省)にどれくらいあり、それでもチャンスがどれくらい残っているかというのが、この国防報告書の神髄の1つなのである。
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