ファーウェイのスマホは本当に「スパイ」可能か――米国が「禁輸」する真の狙い米中貿易戦争の真実(5/6 ページ)

» 2019年11月21日 06時00分 公開
[遠藤誉ITmedia]

「周波数」巡る米中対立

 国防報告書の中で最も私の興味を引いたのは「周波数(frequency)」に関する分析だ。

 5Gの必須特許出願数の企業別シェアは米中で比べるならば中国勢が圧倒的に優勢で、ファーウェイ(15.05%)+ZTE(11.07%)=36.12%であるのに対して、アメリカはクァルコム(8.19%)+インテル(5.34%)=13.53%でしかない。この国別比較は第二章の図2-4でも示したが、その図に関してITUや3GPPなどが「国際標準化規格」を協議していると書いた。

 その結果、5Gの周波数に関しては、「低周波数領域」と「高周波数領域」の二つに分かれることになった。この決定に大きな影響をもたらしたのがファーウェイを中心とした中国勢だ。

 中国勢は国際標準化規格として低周波数領域を主張し、クァルコムを中心としたアメリカ勢は「ほぼ止む無く」高周波領域を主張することとなった。

 そこで国防報告書は、5Gに関するこの2種類の周波数領域に焦点を当て、以下のような論理を展開している(解説を加えながら、レポートの内容をご紹介する)。

 1.sub-6(サブ・シックス)と呼ばれる、6GHz以下の周波数(主に3〜4GHz)(中国は主にこの技術を開発している)。国際標準規格などを決める3GPPなどでは450MHz〜6000MHz(6GHz)の周波数帯 をFrequency Range 1(FR1)と称し、この範囲を sub-6 と呼んでいる。メインは3〜4GHzだとしているのは国防報告書である。

 2.mmWave(ミリ波)と呼ばれる24GHz以上の周波数(日米韓は主にこの技術を開発している)。この高周波数領域に関しても3GPPは24・250 GHz〜52・600GHzの周波数帯を Frequency Range 2(FR2)と称している。

 図3-2に示したのは、国防報告書の3頁目に掲載されているものだ。

photo 低周波数帯域と高周波数帯域(出典:米国防報告書)

 この図の左側が中国、右側が日米韓などが主として開発している周波数領域である。

 Hzは「ヘルツ」で、これは「1秒間あたりの振動回数を表す周波数の単位」である。1Hzは1秒あたり1回の振動。kHz(キロヘルツ)は1秒あたり1000回、MHz(メガヘルツ)は1秒あたり100万回、GHz(ギガヘルツ)は1秒あたり10億回の振動になる。

 一般に周波数が低いと「音」の性格に近く、周波数が高くなれば光の「電波特性」を持つため、「光」の性格に近づいていく。

 たとえば、今ある人「Aさん」が野原に立っていたとしよう。

 Aさんの目の前である音がしたら、Aさんの後ろ側にいる人にも、その音は聞こえる。

 そこに大木が生えていても、あるいは何かレンガの塀があっても、裏側で音を聞くことができる。

 しかし光だと、どうだろう。

 Aさんの目の前に当てた光は、Aさんの体分の影となって、その後ろ側には届かない。大木があっても影となるし、レンガの塀でも同じことだ。雨が降っても遮られて影ができるし、手先だけでも影はできる。

 つまり光は「曲がらない」=「直進する」のである。

 しかし音は「回り込む」=「現象的には曲がる」ことに相当する。

 このことが原理となって、低周波数領域と高周波数領域には、それぞれ以下のようなメリットとディメリットがある。

1.(sub-6  中国など)の場合

 メリット :カバーする距離が長い。複雑な地形にも対応できる。コストが低い。

 ディメリット:速度が mmWave より遅い

2.(mmWave  日米韓など)の場合

 メリット  :速度が早い

 ディメリット: カバーする距離が短い。一定距離を超えるとほぼつながらなくなる。複雑な地形への対応が難しい。コストが高い。

 mmWave は障害の衰減がひどい。直進性が強く、障害物に対して回り込まないなど光に近い電波特性があるため、障害物があると電波が大変弱くなる。従って、目視できない範囲だとあまり使えない。

 もちろん Massive MIMO(マッシブ・マイモ。次世代通信の要素技術で、複数のアンテナを用いるMIMOをさらに発展させたもの。Massiveは「大規模な」の意味で、MIMOは「無線通信において送信機と受信機の双方で複数のアンテナを使い通信品質を向上させること」をいう)などで改善のための研究もされているが、それはそれでコストがかかる。

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