「若いときにひどい目にあった」自慢のおじさんは、なぜヤバいのかスピン経済の歩き方(5/5 ページ)

» 2019年12月10日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]
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「苦痛を与えないと一人前にならない」思想

 先日、児童虐待があまりにも多く一向に減らないので、子どもの体罰禁止を法制化するというニュースがあった。

 「虐待はダメだけど、私が殴るのはしつけ」という御都合主義の親のせいで毎年、多くの子どもが殴り殺されていくこの日本で、ようやく先進国並に「子どもの人権」が認められる。喜ばしいことかと思ったら、驚くことに「子育てに悩む親を追いつめる」「道をそれる前に、ときには殴ってでもしつけをするのが親の義務」などと批判が殺到しているというのだ。

 報道によれば、子どもを叩くことを禁止されたら、どのように子育てをすればいいのか分からない親がたくさんいるそうで、さらに、我が子に軽々しくビンタができないような世の中では、親になりたい人がもっと少なくなっていくと心配する人もいるらしい。

 つまり、世界では子どもも1人の人間なので、親だからといって暴力にものを言わせて従わせちゃダメでしょという考え方だが、日本では「愛のある暴力」で子どもを服従させるのは致し方ないことであり、むしろ悪いことを体に叩き込む「効果的な教育」だという考え方なのである。

 ここまで言えばもうお分かりだろう。この日本独特の”しつけ理論”こそが、いつまでたってもこの国でパワハラ、部活動のシゴキ、児童虐待などがなくならない諸悪の根源なのだ。

 この国ではいまだに、人間というのはある程度の苦痛を与えないと一人前にならない、といった思想が社会のど真ん中にある。そして、この思想教育の申し子こそが、「若いときにひどい目にあった自慢おじさん」なのだ。

 このあたりのクレイジーな考え方が変わらないことには、どんなに企業側が再発防止を叫んでも、パワハラも過重労働も日本社会からなくなることはないのではないか。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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