「若いときにひどい目にあった」自慢のおじさんは、なぜヤバいのかスピン経済の歩き方(3/5 ページ)

» 2019年12月10日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

自分を成長させた「試練」を再現

 このように「若いときにひどい目にあった自慢おじさん」が、電通や三菱電機という巨大組織の管理職にはかなり存在していることは、容易に想像できよう。

 電通マンは激務で知られている。クライアントのためなら不眠不休はあたり前で、若手のうちは家に帰るのはシャワーと着替えのみなんてのも珍しい話ではない。代理店らしく得意先の接待などもかなりハードで、筆者の友人も毎晩のように一気飲みして吐きすぎて吐血していた。一方、三菱電機は先ほど触れたように、社員の過労自殺や精神疾患が多く報告されている。

三菱電機、8月下旬に新入社員が自殺していたことが明らかに(出典:ロイター)

 このように伝統的にパワハラや過重労働が存在している大企業の中で生存競争を勝ち抜いて、それなりのポストに付いた人は、パワハラや過重労働に対する耐性がかなり強い人ということでもある。強いどころか、これを乗り越えたから今の自分があるといった感じの「試練」くらいにしか思っていないのだ。

 そこで想像していただきたい。そんなハードな労働環境が当たり前の組織に、ポコンと今風の若者が入社するわけだ。教師から殴られず、部活で意識が失くなるほどシゴかれたこともないスマートな若者を見て、「若いときにひどい目にあった自慢おじさん」たちはどう感じるか。

 ぬるい。甘えている。社会をナメている。そんなイライラとともに、企業の管理職としては、どうすればこの腑抜けた若者を一人前に鍛えられるかと思い悩むはずだ。そこですがるのが、自分が若いころはどうやって一人前になったのかという「成功体験」である。つまり、先ほどの体操コーチのように、自分を成長させた「試練」を再現するのだ。

 これが電通や三菱電機のような大企業が過重労働やパワハラがなくならない構造的な理由だ。

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