大戸屋ドキュメントに見る、改善努力がパワハラ呼ばわりされる理由(2/3 ページ)

» 2019年12月16日 11時00分 公開
[増沢隆太INSIGHT NOW!]
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(2)「努力」という根性論の危険性

 飲食店では食事の調理だけでなく、その原材料仕込み、提供・接客など幅広いオペレーションがあります。特に人気のある定食屋など昼時やピーク時のさばきだけでもたいへんな仕事です。社長は「まだ改善できる」と努力を諦めません。結局食品の仕込みをしながら別作業も進めるなど、分単位秒単位の作業分析の結果、労働時間1時間短縮を達成します。

 ブラックと呼ばれる飲食店の厳しい環境の、むしろ改善を目指しているのが社長はじめ経営陣なのでした。しかしその意図は通じたでしょうか? 残業時間が規定の45時間を超えていることを再三にわたり厳しく指摘される店長。外国人バイトを雇ったり、単発バイトで人員補充をしたり、いろいろ工夫をして何とか自分自身の残業時間も短縮させようと努力します。しかし外国人バイトからはより高い時給の店に移られてしまったり、単発バイトは結局戦力としてあてにならなかったり、成果につながりません。

 飲食業界はバイトですらもその過酷な労働や、労働に対しての給料(時給)が見合わないと、人手が全く足りない状況が続いています。店長は時給アップを提案しますが、当然店舗の収益ダウンと連動するため単なる時給アップが良策とは受け止められない雰囲気が漂います。結局店長たちの「努力と工夫とがんばり」によって、バイトの定着化は進み、残業時間削減は進んだのでした。めでたしめでたし……とは、なりません。

 ハラスメント研修で私が訴えるのは、その行為が「正しいか正しくないか」だけではないという視点です。たとえ正しい判断・正しい行為であっても、その意図はハラスメントと受け止められる可能性があることを、今の管理職は認識しなければならないのです。

 店の時給が安くてバイトが集まらないことも、オペレーション時間のことも、経営責任ではないのか? という疑問を持たれる可能性があります。飲食店の店長はかつて名ばかり管理職の典型でした。職名こそ店長で管理職扱いでも、実際には現場の1スタッフとして管理業務などできないほど忙しく自ら働かなければならない、およそ「管理監督者」などと呼べない現実があります。

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